ヴァイノ・リンナ

ヴァイノ・リンナ

ヴァイノ・リンナ（Väinö Valtteri Linna、1920年12月20日 - 1992年4月21日）は、20世紀後半のフィンランド文学を代表する重要な小説家です。フィンランド南部のウルヤラに生まれ、その作品は多くのフィンランド国民に読み継がれています。

異色の経歴と作家への道

リンナのキャリアは一般的な文学者のものとは異なっていました。小学校を卒業した後、彼はすぐに学業の道を続けるのではなく、農林業や工場の労働者として働きました。こうした実社会での経験は、彼の後の作品において、庶民の視点や労働者階級の生活をリアルに描くための貴重な基盤となります。作家としての活動を始めたのは、こうした肉体労働を経てからでした。

1947年に発表された処女作『目標』（Päämäärä）は、スウェーデンの作家ヨハン・アウグスト・ストリンドベリの影響が感じられる作品でした。翌1948年には『黒い恋』（Musta rakkaus）を続けて刊行し、作家としての歩みを進めます。

戦争文学と国民的作家への評価

初期の作品から転じて、リンナは第二次世界大戦中にフィンランドとソビエト連邦の間で戦われた「継続戦争」を題材にした作品を手がけるようになります。そして1954年、彼の名を一躍有名にした傑作『無名戦士』（Tuntematon sotilas）を発表しました。

この作品は、従来の英雄主義的な戦争描写とは一線を画し、前線で戦う普通の兵士たちの目を通して戦争の悲惨さ、恐怖、そして人間の本質を赤裸々に描きました。その写実的で力強い筆致は、フィンランド社会に大きな衝撃を与え、国民的なベストセラーとなります。『無名戦士』はフィンランドで何度も映画化されており、特に1955年のエドヴィン・ライネ監督版、1985年のラウニ・モルベルイ監督版、そして2017年のアク・ロウヒミエス監督版はよく知られています。

大河小説『ここ北極星の下で』

『無名戦士』で揺るぎない地位を築いたリンナですが、彼の代表作としてしばしば挙げられるのが、1959年から1962年にかけて刊行された全3部作の長編小説『ここ北極星の下で』（Täällä pohjantähden alla）です。この作品は、20世紀初頭から第二次世界大戦後のフィンランド社会の激動の時代を、ある農村に暮らすコスケラ家の三世代にわたる物語を通して描き出した大河小説です。農地改革、社会階層間の対立、フィンランド内戦、そして二度のソビエトとの戦争といった歴史的出来事が、人々の日常生活や家族関係に与える影響が克明に描かれています。

この壮大な叙事詩は、フィンランドの社会構造や歴史を深く理解する上で不可欠な作品と見なされており、リンナはこれによりノーベル文学賞候補にも挙げられました。1963年には、この功績によって北欧文学賞を受賞しています。

社会的立場と遺産

作家としての成功に加え、リンナは社会的な名誉も得ました。タンペレ大学の名誉教授やフィンランド・アカデミーの会員を務めるなど、フィンランドの文化・学術界において重要な役割を果たしました。彼の作品は、庶民の言葉を駆使したリアリズム、権威への批判精神、そしてフィンランド社会の歴史と矛盾への深い洞察を特徴としています。

リンナは1992年4月21日、タンペレで71歳でその生涯を閉じました。しかし、彼の作品、特に『無名戦士』と『ここ北極星の下で』は、今なおフィンランドで広く読まれ、演劇化や映画化が繰り返されるなど、国民的な文学遺産として生き続けています。彼の作品は、単なる物語としてだけでなく、フィンランドという国家と国民のアイデンティティを考える上での重要な手がかりを提供しています。

主な作品

小説

『目標』（Päämäärä、1947年）
『黒い恋』（Musta rakkaus、1948年）
『無名戦士』（Tuntematon sotilas、1954年）
『ここ北極星の下で』（Täällä pohjantähden alla、1959年、1960年、1962年）

エッセイ集

Oheisia（1967年）
Murroksia（1990年）

脚本（共作等）

Here under the North Star（1968年）
Akseli and Elina（1970年）
Unknown Soldier（1985年）など、自身の作品の映画化等に関与。

映画化された主な作品（原作：『無名戦士』）

『地獄の最前線』（監督：エドヴィン・ライネ、1955年）
『若き兵士たち 栄光なき戦場』（監督：ラウニ・モルベルイ、1985年）
『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』（監督：アク・ロウヒミエス、2017年）

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