ヴァニラ・ファッジ

ヴァニラ・ファッジ：アート・ロックとヘヴィメタルの架け橋

ヴァニラ・ファッジは、1960年代後半にアメリカ合衆国で活動を開始したロック・バンドです。彼らは「アート・ロック」というスタイルに分類され、特にサイケデリック・ロックと後のヘヴィメタルを結びつける重要な存在として位置づけられています。その強力なリズムセクションは当時から高く評価され、初期ハードロックのルーツの一つとしても知られています。バンドは一度活動を停止しましたが、1982年に再始動して以降、断続的に活動を続けています。

バンドの誕生と初期活動

バンドのオリジナル・ラインナップは、マーク・スタイン（ボーカル、オルガン）、ティム・ボガート（ボーカル、ベース）、ヴィンス・マーテル（ボーカル、リードギター）、そしてカーマイン・アピス（ドラムス）の4人でした。バンド名は、当時のアメリカで親しまれていたアイスクリームの商品名に由来しています。結成のきっかけは、スタインとボガートがラスカルズの音楽に触発されたことでした。当初は「ザ・ピジョンズ」という名前でしたが、アピスの加入を機にヴァニラ・ファッジと改名しました。彼らはマネージャーのフィリップ・バジーレに見出され、初期の主要アルバムはプロデューサーのシャドウ・モートンと共に制作されました。

1960年代後半のアメリカは、社会的な変動期にあり、音楽シーンにも新しい動きが生まれていました。ヴァニラ・ファッジは、従来のポップスやロックンロールの形式にとらわれず、長尺な演奏や実験的なアレンジを追求する「アート・ロック」の流れの中で登場しました。ラジオでのオンエアを意識しない彼らの長い楽曲は、バンドの大きな特徴となりました。

彼らの最大のヒット曲は、1967年の「キープ・ミー・ハンギング・オン」です。これは、シュープリームスのオリジナルを、スローでサイケデリックな約7分の楽曲へと大胆にアレンジしたもので、アルバムのヒットに続き、短縮されたシングルも全米チャートで6位を記録しました。彼らはビートルズをはじめとする様々なアーティストの楽曲を、独自の解釈でカバーすることでも知られています。

初期に発表したアルバムは、『ヴァニラ・ファッジ』（1967年）、『ビート・ゴーズ・オン』（1968年）、『ルネッサンス』（1968年）、『ニア・ザ・ビギニング』（1969年）などがあり、いずれもビルボード・チャートにランクインしました。

解散とメンバーの歩み、そして繰り返される再結成

ヴァニラ・ファッジは1970年3月に一度解散しました。解散後、ティム・ボガートとカーマイン・アピスはカクタスを結成、さらにジェフ・ベックと共にベック・ボガート＆アピスとしても活動しました。一方、マーク・スタインはブーメランを結成するなど、各メンバーは別の音楽活動に進みました。

しかし、バンドはその後も度々再結成を繰り返しています。1982年にはコンピレーション盤リリースに合わせて再結成され、アルバム『ミステリー』（1984年）を発表しましたが、この時はヴィンス・マーテルは不参加でした。メンバーチェンジを伴いながらも、1980年代後半や1991年などにも再結成してツアーを行いました。

1999年には、アピス、ボガート、マーテルのオリジナル・メンバー3人に新メンバーを加えた形で再結成し、アルバム『リターン』や『ゼン＆ナウ』などをリリースしました。その後、ボガートの体調不良などによりベース担当が交代し、ピート・ブレミーらが参加するようになります。2005年には再びオリジナル・メンバー4人が揃ってツアーを行い、精力的な活動を展開しました。

長年の功績が認められ、2006年10月にはロングアイランド音楽の殿堂入りを果たしています。

近年の活動として、2007年にはレッド・ツェッペリンのトリビュート・アルバム『アウト・スルー・ジ・イン・ドア』をリリース。2011年頃までオリジナル・メンバーを含むラインナップでツアーを続けました。2015年には最新のスタジオ・アルバム『Spirit Of '67』を発表しています。オリジナル・ベーシストのティム・ボガートは2021年に逝去しました。

現在のヴァニラ・ファッジは、マーク・スタイン、ヴィンス・マーテル、カーマイン・アピスのオリジナル・メンバー3人に、ピート・ブレミーを加えたラインナップで活動しています。

ディスコグラフィ（一部）

スタジオ・アルバム
『ヴァニラ・ファッジ』（1967年）
『ビート・ゴーズ・オン』（1968年）
『ルネッサンス』（1968年）
『ニア・ザ・ビギニング』（1969年）
『ロックン・ロール』（1969年）
『ミステリー』（1984年）
Spirit of '67（2015年）

ライブ・アルバム
『ザ・ベスト・オブ・ヴァニラ・ファッジ・ライヴ』（1991年）
The Real Deal – Vanilla Fudge Live（2003年）

コンピレーション・アルバム
『ザ・ベスト・オブ・ヴァニラ・ファッジ』（1982年）
* 『ゼン＆ナウ』（2004年）

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