ヴァルター・ギーゼキング

ヴァルター・ギーゼキング：伝説のピアニスト、その生涯と芸術

ヴァルター・ヴィルヘルム・ギーゼキング（1895年11月5日 - 1956年10月26日）は、ドイツ出身のピアニスト、作曲家であり、アマチュアの蝶類研究家としても知られています。彼の音楽は、繊細さと直感的な解釈で世界中の聴衆を魅了しました。

生涯

1895年、ギーゼキングはフランスのリヨンでドイツ人の両親のもとに生まれました。幼少期は学校に通わず、自宅で百科事典や楽譜を読みふける日々を送りました。この頃から蝶への興味を持ち始めます。両親の勧めでハノーファー音楽院に入学し、カール・ライマーに師事。ライマーの先進的な教育に感銘を受けました。

デビュー後は、リサイタルとレッスンで多忙な日々を送り、ヨーロッパ各地を飛び回りました。第二次世界大戦中はドイツに留まったため、ナチス協力者との疑いをかけられましたが、後に嫌疑は晴れました。

1956年、ロンドンでベートーヴェン全集の録音中に倒れ、手術を受けるも帰らぬ人となりました。急逝の8日前には、ショパンの「舟歌」を録音しています。自伝『かくて我はピアニストとなれり』は、1963年に出版されました。墓はドイツのヴィースバーデンにあり、彼の長女が暮らしています。

人物と音楽性

ギーゼキングは、本能的で直感的なピアニストとして知られています。練習を重ねるよりも、楽譜を深く読み込み、演奏をイメージすることで曲を習得したと言われています。楽譜に没頭するあまり、何時間も沈黙することがあり、夫人がストレスを感じることもあったそうです。また、初見演奏にも優れていました。彼は「スケールとアルペジオの練習のみで、全てのテクニックを習得しました」と語ったと伝えられています。

レパートリーは、バッハやベートーヴェンなどの古典から、ブゾーニ、シェーンベルク、ペトラッシなどの現代音楽まで幅広く、1923年にはプフィッツナーのピアノ協奏曲を初演しました。しかし、今日ではモーツァルト、ドビュッシー、ラヴェルの演奏家として特に知られています。ラフマニノフ本人が存命中に彼の協奏曲を録音した最初のピアニストでもあります。ギーゼキングは、ラフマニノフ自身のテンポを忠実に再現する卓越した技術を披露しました。

ドビュッシーやラヴェルのピアノ曲は、運指やペダルの指定が少ないため、演奏者の解釈が重要になります。ギーゼキングの演奏は、楽曲の構成を明晰に捉え、ニュアンスに富んだ繊細な音色と多彩な表情の変化で、これらの作曲家の音楽を見事に表現しました。彼の演奏は、学習者の模範としてだけでなく、後世のピアニストにとっての目標となりました。

カール・ライマーとの共著で、2冊のピアノ奏法論を出版しました。

録音

ギーゼキングの録音は、完璧なものからウォーミングアップ程度のものまで様々です。彼のCDは何度も再発売され、貴重な文化財として保存されています。完璧な作品の記憶力、楽譜への忠実さ、楽曲構造に対する明快な洞察力は、同時代のピアニストの中でも際立っていました。SP時代の録音が特に優れているとされています。戦後は、放送用の録音を多く残しました。1945年には、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番の最初期のステレオ録音も行いました。

使用ピアノ

ギーゼキングは、グロトリアン・シュタインベックのピアノを使用した記録がありますが、他のメーカーのピアノも使用しており、特定のメーカーにこだわっていたわけではないようです。ドビュッシーの「ピアノのために」では、第三ペダルを使用した痕跡があり、これはスタインウェイ・アンド・サンズ製であると考えられています。

備考

園田高弘のデビュー時、「日本のギーゼキング」というキャッチフレーズが付けられました。

作品

ギーゼキングは、室内楽曲を8曲、ピアノ曲を10曲程度作曲しました。楽譜はショット社から出版されていましたが、現在は絶版となっています。

ギーゼキングの音楽は、今もなお多くの人々に愛され続けています。彼の演奏は、繊細さと知性、そして音楽への深い愛情に満ちています。

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