ヴァンフォーレ甲府の練習場

Jリーグに所属するヴァンフォーレ甲府は、クラブ設立当初から特定の専用練習場を持たず、山梨県内に点在する様々なグラウンドを移動しながらトレーニングを行うという、他の多くのJクラブとは異なる活動形態をとってきた。

クラブがJリーグへ参入したばかりの時期、練習環境は極めて厳しい状況にあった。利用していた市営競技場や民間のグラウンドには、クラブハウスはもちろんのこと、選手が着替えたりシャワーを浴びたりする施設すらほとんど備わっていなかった。選手たちはグラウンドの片隅で着替えを行い、チームミーティングも屋根のない青空の下で行わざるを得なかった。練習後にはホースで水を浴びて汗を流すなど、その設備水準は他のJクラブと比較して著しく劣っていたとされている。また、天候不良などにより予定していた練習場が急遽使用できなくなることも珍しくなく、その際は甲府市内を流れる荒川の河川敷にある空き地や、小瀬スポーツ公園の広場を一時的な練習場所として利用することすらあったという。練習場が固定されない状況は、クラブスタッフにも大きな負担を強いた。練習に必要な用具を毎日トラックに積み込み、各地へ移動させる作業が発生したほか、急な場所変更があった際には選手へ迅速に連絡する必要があり、その苦労は絶えなかった。このため、クラブにとってクラブハウスを併設した専用練習場の確保は長年の課題であったが、経営危機からの立て直しや選手寮の建設など、他の喫緊のインフラ整備も並行して進めなければならなかったため、練習場問題の解決は容易に進まなかった。

練習環境改善に向けた動きの一つとして、2006年には中巨摩郡昭和町が防災事業補助金や日本サッカー協会からの助成金を活用して整備を計画した押原公園グラウンドが、ヴァンフォーレ甲府の練習場として使用されることが決定した。このスポーツ公園には、夜間照明付きの天然芝と人工芝グラウンドが各一面ずつ設けられ、シャワー室や会議室、ロッカールームを備えた管理棟も整備される計画だった。これは、それまでの環境からすれば格段に恵まれた設備と言えた。公園は2006年秋に着工し、2007年春には使用開始される予定だった。しかし、整備途中で町長が交代すると方針が変更され、竣工は当初計画より1年遅れの2008年となった上、町民の利用を優先するという意向から、ヴァンフォーレ甲府の練習利用は週2日まで、しかも使用料の減免なしという厳しい条件が付された。結果として、押原公園グラウンドが使用できない日は、チームは引き続き県内各地のグラウンドを転々とすることになり、屋外での着替えや青空ミーティングといった劣悪な環境を強いられる状況は完全には解消されなかった。

押原公園での利用が制限される中、クラブは新たな練習場を模索し、2010年には山梨大学との連携を強化。中央市にある山梨大学医学部グラウンドの整備に着手した。クラブがグラウンドの芝生化や、更衣室、シャワー室、ミーティングルームを備えた管理棟を建設して大学に譲渡し、クラブが維持管理を担う代わりに、大学が使用しない時間帯にはクラブが最優先で利用できるという取り決めが交わされた。医学部グラウンドは天然芝一面のみではあったが、山梨中銀スタジアムと同様の夏冬混合芝が採用され、年間を通じて良好なコンディションが維持されるようになった。この医学部グラウンドが週4日程度使用可能になったことで、これまで使用していた練習場を大幅に削減することができ、チームの移動時間や天候による練習場所変更のリスクを大きく軽減することに成功した。

2013年から施行されたJリーグクラブライセンス制度において、「クラブが年間を通じて使用できる天然芝もしくは人工芝のピッチ1面」がライセンス交付のための必須基準（A基準）の一つと定められた。専用練習場を持たないヴァンフォーレ甲府であったが、押原公園と医学部グラウンドを組み合わせることで年間を通じて練習可能な環境が整っていると認められ、2012年のライセンス審査で基準をクリアし、J1ライセンスが発給された。しかし、J1昇格がかかっていた2012年10月、医学部グラウンドと押原公園の天然芝が養生期間に入り使用できなくなるという事態が発生した。これにより、J1昇格を決定する重要な試合前の5日間、チームはすべて別の練習場でトレーニングを行わざるを得なくなり、中には公式サイトに掲載されていない韮崎市営総合運動場を使用する日もあった。この状況に危機感を抱いたサポーターは、試合会場で専用練習場とクラブハウスの建設を求める横断幕を掲げた。また、昇格決定後の記者会見で、当時の城福浩監督も専用練習場がないことが選手やスタッフに与える負担の大きさを訴え、改めて環境改善の必要性が強く認識されることとなった。

こうした現場やサポーターからの強い要望を受け、クラブは関係各所と再び協議を重ねた。その結果、2012年の優勝報告会に出席した韮崎市の横内公明市長が、現在練習場の一つとして使用している韮崎中央公園芝生広場を改修し、ヴァンフォーレ甲府が優先的に使用できる施設とする計画を発表した。この改修では、グラウンドの芝を小瀬や医学部グラウンドと同様のものに張り替え、さらに選手ロッカールームや監督室、浴場などを備えた本格的なクラブハウスの建設も行われた。そして、2013年10月6日より、この韮崎中央公園芝生広場がチームの主要練習場として利用開始されたのである。これにより、長年の課題であったクラブハウス併設の主要練習場がようやく確保されることとなった。

現在、ヴァンフォーレ甲府のトップチームが日々のトレーニングで主に使用しているのは、この韮崎中央公園芝生広場である。名称は芝生広場だが、実際にはサッカー用に整備された球技場として機能している。2013年に完成したクラブハウスが隣接しており、練習日にはクラブハウスおよびその周辺エリアは一般の立ち入りが制限されるが、練習がない日は立ち入りが可能となっている（クラブハウス内部への立ち入りは通常不可）。

韮崎中央公園が芝生養生期間に入ったり、韮崎市が主催するイベント等で使用できない場合には、山梨大学医学部グラウンドが練習場として利用される。ここは2010年から使用されており、天然芝一面のグラウンドと管理棟を備えている。大学が使用しない時間帯にクラブが優先利用できる。アクセスは身延線小井川駅から徒歩約12分、または甲府駅からのバス利用が可能。自動車の場合は中央自動車道甲府昭和インターチェンジから約15分だが、見学者用駐車場はイオンタウン山梨中央近隣に指定されている区画を利用する必要がある。また、さらにこれら二つの主要練習場が使用不可能な場合に限り、押原公園グラウンドの天然芝または人工芝グラウンドが利用される。

上記主要練習場以外にも、ヴァンフォーレ甲府の公式サイトにはいくつかのグラウンドが掲載されているが、これらがトップチームの練習に使用されることは非常に稀である。過去には、現在公式サイトに掲載されていない様々な場所でも練習が行われていた。2010年に医学部グラウンドが整備されるまでは、現在の一覧にない小瀬スポーツ公園補助競技場や韮崎市営総合運動場などが公開練習場として利用されていた。また、企業敷地内のグラウンドや教育機関のグラウンドを使用することもあったが、これらの場所での練習は一般非公開とされ、メディア関係者のみがクラブの許可を得て立ち入ることができた。

トップチームとは別に、ヴァンフォーレ甲府のアカデミー（下部組織）は、南アルプス市にある八田河川敷グラウンドを主な練習拠点としている。釜無川の河川敷に整備されたこのグラウンドはU-18以下のチームが使用しており、トップチームのように練習場を移動することはほとんどなく、ほぼ固定された環境で活動を行っている。八田河川敷グラウンドには、人工芝グラウンド、フットサルグラウンドに加え、クラブハウスも整備されている。

ヴァンフォーレ甲府の練習場を巡る歴史は、資金力が潤沢ではない地方クラブが、Jリーグの求める基準と現実的な制約の中で、いかに練習環境を整備・改善してきたかを示す事例と言える。長年の課題であった専用練習場とクラブハウスは、自治体や大学、地域との連携、そして多くの関係者の努力によって段階的に実現し、現在の比較的安定した練習環境が築かれたのである。

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