ヴァーサ号 (Vasa)
ヴァーサ号は
スウェーデン海軍の64門の
戦列艦で、
1626年に建造が始まり、
1628年に初航海で
沈没した。この艦は、スウェーデン王グスタフ2世アドルフの命令で巨大な海軍力を再興するために設計されたが、設計段階で多くの問題が発生し、悲劇的な運命をたどることに。
建造の背景
当時のスウェーデンはポーランドと戦争中であり、海軍力の強化が急務でした。新たな戦艦の建造が提案され、ヴァーサ号はオランダから招かれた設計者によって建設されることになりました。しかし、設計者が途中で亡くなると、未亡人が経営を引き継ぎ、他の技師たちと共に新たな指針で建造が進められました。企画段階では単層の砲甲板が想定されていたにもかかわらず、最終的には二層に増強されました。
加えて、砲門が多く装備された重武装の艦体は、通常の船に比べて過剰な重量をもたらし、船の安定性が著しく損なわれました。当時は船舶の設計に関する計算手法が確立していなかったため、経験則に頼った設計が行われ、結果的にヴァーサは重心が高く不安定な艦となってしまいました。最終的には、艦体の美しさを追求するあまり、優れたデザインが逆にその運命を決定づけることになりました。
初航海の悲劇
1628年8月10日、ヴァーサは最初の航海に出発しました。波の穏やかな日和の中、トレクローノル城の係留場から出帆しましたが、ストーン
マストを掲げて進むや否や、横風を受けてしまいました。この結果、
復原性問題によって船はあっという間に横転し、10分も経たずに
沈没しました。乗組員の中には、泳ぎの得意な者が多かったものの、約30人が命を落とす悲劇となりました。
国王はすぐさま
沈没した艦の回収を命じましたが、引き上げ作業は当初苦戦を強いられ、大砲と貴重品は
1664年までに回収されたものの、船体自体の回収には失敗が続きました。結局、
沈没地点は泥に埋もれ、その後長期間にわたり位置が不明となったのです。なお、当時の設計変更や艦の運営に関して、関与した技師や艦長が逮捕・捜査を受ける事例もありましたが、結局誰も責任を問われることはありませんでした。
復元への道
1950年代に入ると、バルト海の水温と酸素濃度の特性を生かし、ヴァーサ号の状態が朽ちずに残っている可能性が高いということが明らかになりました。アンデシュ・フランツェーンの尽力により、1956年に打ち上げられた引き上げ計画が成功し、
1961年にヴァーサは333年ぶりに姿を現しました。引き上げ作業は多くの手間を要し、長期的な復元作業も行われました。
ヴァーサ号博物館とその影響
復元が完了したヴァーサ号は、
1988年からストックホルムのヴァーサ博物館で展示されています。展示物には船体や装飾、武器、さらには4000点以上の遺物が含まれています。特に、その状態を保つための努力も評価され、毎年100万人以上が訪れる人気の観光地となっています。ヴァーサ号は歴史的な意義を持つと同時に、設計や造船技術に関する重要な資料を提供しており、多くの人々に学びと感動を与えています。