ヴァージニア・アプガー

ヴァージニア・アプガー：アプガー指数で世界を変えた女性医学者

ヴァージニア・アプガー (1909年6月7日 - 1974年8月7日) は、アメリカ合衆国ニュージャージー州出身の、類まれな才能と多様な関心に満ちた女性医学者でした。小児科と麻酔科の両方を専門とし、特に新生児医療においては、画期的な功績を残しています。彼女の開発したアプガー指数は、世界中の新生児医療現場で広く用いられ、乳幼児死亡率の低下に大きく貢献しました。

学術的キャリアとアプガー指数の開発

アプガーは、1929年にマウント・ホリヨーク大学を卒業後、1933年にはコロンビア大学医科大学院を優秀な成績で修了しました。その後、コロンビア大学に採用され、麻酔学と小児科を専門として研究と臨床に携わりました。1949年には、同大学初の女性正教授に就任するという快挙を成し遂げ、スロアーン産婦人科病院で臨床研究を行いました。さらに、1959年にはジョンズ・ホプキンス大学で公衆衛生学の修士号を取得しています。

彼女の最も大きな業績は、新生児の健康状態を迅速かつ簡便に評価するための「アプガー指数」の開発です。この指数は、心拍数、呼吸数、筋肉緊張、反射、皮膚の色調という5つの項目を0～2点で評価し、合計点を算出することで、新生児の容体の程度を把握するものです。アプガー指数は、新生児の蘇生処置や医療ケアの迅速化に貢献し、世界中で広く利用されている画期的な指標となりました。現在でも、新生児の出生直後と5分後にアプガー指数が測定され、その後のケアに役立てられています。

多彩な才能と豊かな人生

アプガーは医学における卓越した業績だけでなく、多彩な才能と豊かな人生でも知られています。音楽一家に生まれた彼女は、幼少期からバイオリンを演奏し、家族で音楽セッションを楽しむ家庭環境で育ちました。成人後もバイオリンを愛し、カルテットに参加したり、旅行に携えていくなど、音楽は彼女の人生を彩る重要な要素でした。

さらに、フライフィッシング、ゴルフ、切手収集、そして特に園芸といった幅広い趣味を持っていました。知的好奇心旺盛な彼女は、飛行機操縦の訓練にも参加し、ニューヨークのジョージ・ワシントン・ブリッジの下を飛行機で飛ぶという夢を実現させました。

アプガーの科学への興味は、アマチュア発明家でもあった父親の影響が大きいと考えられています。また、兄の病気や早逝という経験も、医学への道を選んだ動機の一つになったと推測されています。

没後と遺産

アプガーは生涯独身を貫き、1974年8月7日に65歳で亡くなりました。彼女が残した功績は、現在も高く評価されており、毎年、周産期学の分野で米国小児科学会より「ヴァージニア・アプガー賞」が贈られています。また、1994年には、彼女の肖像が合衆国の20セント普通郵便切手に採用されました。

アプガーは、60種類以上の科学論文を発表し、多くの書籍や論文を執筆しました。彼女の研究や開発したアプガー指数は、新生児医療の進歩に計り知れない貢献をしました。現在、世界中の子どもたちが健康に生まれることができるのは、アプガーの揺るぎない情熱と努力の賜物と言えるでしょう。

アプガーの生涯は、医学における卓越した業績だけでなく、多様な才能と豊かな人生、そして生涯独身を貫いた彼女の生き様を通して、私たちに多くの示唆を与えてくれます。彼女の功績は、今後も多くの医療従事者や研究者たちにインスピレーションを与え続けるでしょう。

もう一度検索