ヴァージン・クイーン

『ヴァージン・クイーン』

1955年にアメリカ合衆国で製作された歴史映画、『ヴァージン・クイーン』（原題: The Virgin Queen）は、イングランド女王エリザベス1世の晩年期に焦点を当てた作品です。監督はヘンリー・コスターが務め、この映画の大きな特色として、女優ベティ・デイヴィスが、1939年の映画『女王エリザベス』に続いて、実に16年ぶりに再びエリザベス1世を演じた点が挙げられます。同一人物を二度演じることは当時としても珍しく、ベティ・デイヴィスのキャリアにおいても重要な位置を占める作品となりました。

物語は、若き冒険家ウォルター・ローリー卿がエリザベス女王に謁見し、その寵愛を得ることから展開します。女王の寵臣としての地位を築こうとするローリー卿と、彼に接近する女王の女官エリザベス・スロックモートン、そして古くからの女王の信頼を得ていたロバート・ダドリーといった宮廷の人々との間で繰り広げられる愛憎や権力争いが描かれます。女王としての威厳と孤独、そして一人の女性としての感情に揺れ動くエリザベス1世の姿が、豪華な宮廷を舞台に活写されます。

主要なキャストは以下の通りです。

エリザベス1世：ベティ・デイヴィス
ウォルター・ローリー：リチャード・トッド
エリザベス・スロックモートン：ジョーン・コリンズ
ロバート・ダドリー：ハーバート・マーシャル

製作陣には、プロデューサーとしてチャールズ・ブラケットが参加しています。脚本はハリー・ブラウンが手掛け、歴史的事実を基にしながらも、ドラマティックな構成が特徴です。音楽はフランツ・ワックスマンが担当し、壮麗かつ優雅な旋律が作品世界を深めています。撮影監督はチャールズ・G・クラークが務め、当時の王宮の雰囲気や人物の表情を鮮やかに捉えています。編集はロバート・L・シンプソン、美術はライル・R・ウィーラーとリーランド・フラーが担当し、時代考証に基づいた荘厳なセットを作り上げました。

特に美術面、中でも衣裳デザインは本作の大きな見どころです。チャールズ・ルメイアーとメアリー・ウィルズによってデザインされた華麗なドレスやローブは、エリザベス時代のファッションを見事に再現し、作品に視覚的な魅力と歴史的な信憑性を加えています。この功績は高く評価され、彼らは同年のアカデミー賞衣裳デザイン賞（カラー作品部門）にノミネートされました。惜しくも受賞は逃しましたが、チャールズ・ルメイアーは同じ年に別の作品『慕情』で同賞を受賞しており、そのデザインの質の高さが窺えます。

本国アメリカでは公開されましたが、日本では残念ながら劇場での公開は実現しませんでした。しかし、長い年月を経た2007年に初めてDVDが発売され、日本国内の映画ファンもこの歴史劇を鑑賞できるようになりました。ベティ・デイヴィスが演じたエリザベス1世は、その力強い演技と個性によって深く印象付けられており、『ヴァージン・クイーン』は彼女の代表的な役柄の一つとして記憶されています。歴史上の偉大な女王の人生の一端を、豪華な装飾と実力派俳優たちの演技で描き出した一作と言えるでしょう。

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