ヴァーティゴ (曲)

ヴァーティゴ (Vertigo)

「ヴァーティゴ」は、アイルランド出身のロックバンド、U2が2004年に発表した楽曲です。彼らにとって通算11枚目のスタジオ・アルバムとなる『原子爆弾解体新書〜ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』から、先行シングルとしてリリースされました。

この楽曲のタイトルは、著名な映画監督アルフレッド・ヒッチコックの1958年のサスペンス映画『めまい』（原題: Vertigo）にインスパイアされたものです。ライブパフォーマンスにおいては、バックスクリーンに映し出される映像も、この映画の象徴的なオープニング・シークエンスへのオマージュが込められています。ボーカルのボノは、この曲を「ナイトクラブに集まる、どこか疲弊した魂を歌ったものだ」と表現しており、偶然にもドイツのアーレンスブルグには「Vertigo」という名前のナイトクラブが存在しています。

楽曲の着想は、ギタリストのジ・エッジがカリフォルニア州マリブの自宅でふと思いついた印象的なギターリフに遡ります。これは、新たなアルバムの制作に着手した際に最初に生まれたアイデアの一つでした。制作過程では、当初「Full Metal Jacket」という仮題がつけられ、その後「Native Son」へと変化しましたが、いずれも完成には至りませんでした。特に「Native Son」の段階では、歌詞は人権活動家レナード・ペルティエから着想を得た、ネイティブ・アメリカンにまつわる内容だったとされています。その後、プロデューサーがクリス・トーマスからスティーヴ・リリーホワイトに代わり、リリーホワイトが曲に手を加えました。彼はボノに対し、「この歌詞を観客の前で心から歌えるか？」と問いかけ、その問いにボノは否定的な反応を示し、歌詞を大幅に書き換えることとなりました。初期のシングルを意識したためか、コーラス部分が初期の楽曲「Stories For Boys」と同様に「Hello, Hello」となっている点が特徴的です。ベーシストのアダム・クレイトンは、この曲のリズムセクションがイギリスのバンドEcho & the Bunnymenを彷彿とさせるとコメントしています。また、楽曲の冒頭にはスペイン語で「ウノ、ドス、トレス、カトールセ！」（1、2、3、14！）というカウントが入りますが、ボノは後にこれが「アルコールが入っていたせい」だと語っています。

本作は、CDシングル発売に先駆け、Apple社のポータブル音楽プレーヤー「iPod」のテレビコマーシャルに起用され、大きな注目を集めました。このCMには、U2のメンバー自身もシルエットとして登場しています。このタイアップを機に、AppleはU2のロゴが刻印されたiPod U2スペシャル・エディションや、デジタルダウンロードで入手可能なU2の全楽曲を網羅したボックスセット『The Complete U2』を発売するなど、大規模なプロモーションが展開されました。商業的にも大きな成功を収め、特にイギリスでは2000年の「ビューティフル・デイ」以来、通算5作目となる全英シングルチャート1位を獲得しました。

ミュージックビデオは複数制作されています。公式ビデオは、ホワイト・ストライプスとの仕事で知られるディレクターチーム、アレックス・コルテス＆マーティン・フーゲロールによって、スペインのエブロ川のデルタ地帯で撮影されました。撮影は2004年9月14日に行われ、同年10月27日にリリースされています。その他にも、アルバムジャケット撮影でリスボンを訪れた際に撮影されたJacknife Leeによるリミックスバージョンのビデオや、公式PV完成までのプロモーション用としてダブリンで撮影されたHQビデオなどが存在します。

「ヴァーティゴ」はその年の音楽シーンで高く評価され、第47回グラミー賞では、最優秀ロック・パフォーマンス（グループ）、最優秀ロック・ソング、最優秀短編ミュージック・ビデオという主要3部門を受賞しました。また、国内外の音楽メディアによる年間ベストリストにも多数ランクインし、ローリングストーン誌の2004年年間ベストシングルで8位、同誌読者投票で1位を獲得したほか、NME誌読者投票で3位、Qマガジンが選ぶ「聞くべき一曲」で34位に選ばれるなど、高い評価を得ています。さらに、ローリングストーン誌が選ぶ00年代ベスト100シングルでは64位にランクインするなど、2000年代を代表するロックアンセムの一つとして位置づけられています。

本作は、様々な形態のシングルとしてリリースされ、カップリングにはオリジナルアルバム未収録の「アー・ユー・ゴナ・ウェイト・フォーエヴァー?」や、クラフトワークのカバー「ネオン・ライツ」などが収録されました。また、ジャックナイフ・リー、トレント・レズナー、レダンカらによるリミックスバージョンも制作され、12インチシングルなどでリリースされています。

この楽曲は、フィギュアスケートの羽生結弦選手が演技中に使用したことや、日本のロックバンド、Asian Kung - Fu Generationの楽曲「N2」のギターリフが本作と似ていることが指摘されるなど、音楽以外の分野や後進のアーティストにも影響を与えています。

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