ヴィオラ・ダモーレ

ヴィオラ・ダモーレ

ヴィオラ・ダモーレ（viola d'amore）は、17世紀末から18世紀前半にかけてのバロック時代に特に発展し、用いられた擦弦楽器です。その名称はイタリア語で「愛のヴィオラ」を意味し、特徴的な甘美で温かい音色に由来しています。

構造と特徴

この楽器の最大の特徴は、演奏に用いる弦とは別に、それと同数の「共鳴弦」を備えている点です。通常、演奏弦は6本または7本で、その下には同じ数の金属製の共鳴弦が張られています。演奏弦が弓で擦られたり、指で押さえられたりして振動すると、その音波が共鳴弦に伝わり、共鳴弦も振動して響きを増幅させます。これにより、豊かで持続的な、独特の音色が生み出されます。

構造的には、ヴィオラ・ダ・ガンバとの類縁も指摘されますが、演奏方法はヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ブラッチョに近く、楽器を肩に乗せて構え、弓で演奏します。ヴァイオリンと比較すると、ヴィオラ・ダモーレは演奏弦の数が多く、裏板が平らであること、指板にフレットがないこと、そしてf字孔と呼ばれる響孔の形状が異なるなどの違いがあります。

音色と名前の由来

「愛のヴィオラ」という名前が示す通り、その音色は非常に甘美で心地よい温かさを持っています。この独特の響きは、前述の共鳴弦の働きによるものです。作曲家モーツァルトの父であるレオポルト・モーツァルトは、自身の著書『ヴァイオリン奏法について』の中で、この楽器の音色について「夜の静けさの中で聴くと、特に魅力的な響きを持つ」と記しています。

演奏と調弦

ヴィオラ・ダモーレは、現代では主にヴィオラ奏者によって演奏されることが多い楽器です。標準的な調弦としては、低い音から順に A - d - a - d' - f#' - a' - d'' といったものが一般的ですが、曲の要求に応じて異なる調弦が用いられることもあります。

関連する楽器

共鳴弦を持つ擦弦楽器としては、ヴィオラ・ダモーレの他にバリトン（baryton）が知られています。また、ノルウェーの民族楽器であるハーディングフェーレ（ハルダンゲルヴァイオリン）は、ヴィオラ・ダモーレから派生した楽器であるという説があります。

レパートリー

ヴィオラ・ダモーレはバロック時代に栄えましたが、その後の古典派の時代には一時的に用いられなくなる傾向がありました。しかし、20世紀に入ってから古楽器への関心が高まるにつれて再び注目されるようになり、現代の演奏家や作曲家によってその魅力が再発見されています。

この楽器のために書かれた、あるいは用いられた主な作品や作曲家には、以下のようなものが挙げられます。

ビーバー
ヴィヴァルディ：特に有名なものとして「ヴィオラ・ダモーレとリュートのための協奏曲ニ短調 RV540」や、6曲からなるヴィオラ・ダモーレ協奏曲集（RV392 - 397）があります。
J・S・バッハ
ルクレール
テレマン
C・シュターミッツ：3曲の独奏協奏曲を残しています。
プッチーニ：歌劇「蝶々夫人」の中でこの楽器を使用しています。
ヒンデミット：「ヴィオラ・ダモーレのための小ソナタ」や「室内音楽第6番（ヴィオラ・ダモーレ協奏曲）」など、この楽器のための作品を複数書いています。
* プロコフィエフ：バレエ音楽「ロメオとジュリエット」で印象的に使用されています。

このように、ヴィオラ・ダモーレは、その独特な構造と音色によって、古楽から近現代の音楽まで、様々な作品でその魅力を発揮しています。

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