ヴィクトル・ゾロトフ

ヴィクトル・ゾロトフ：プーチン大統領の側近、その権力と富の軌跡

ヴィクトル・ヴァシリエヴィッチ・ゾロトフ（1954年1月27日生まれ）は、ロシア国家親衛隊（ロスグヴァルディヤ）の局長であり、ロシア連邦安全保障会議のメンバーです。彼は、ボリス・エリツィン元大統領、アナトリー・サプチャーク元サンクトペテルブルク市長、そして現在のロシア大統領ウラジーミル・プーチンのボディーガードを務めた経験を持つ人物です。特にプーチンとの関係は深く、彼の側近として権力を拡大してきました。

初期の経歴とKGB

ゾロトフは、リャザン州サーソヴォの労働者階級の家庭に生まれ、旋盤工として働いていました。1975年には、KGBのソ連国境軍でキャリアをスタートさせ、軍人としての道を歩み始めました。

ボディーガードとしてのキャリア

1991年、ソ連8月クーデターの際、ボリス・エリツィンの「戦車演説」の際に隣でボディーガードを務めていたのがゾロトフでした。ソ連崩壊後、彼は新設されたロシア高官を保護する連邦警護庁の一員となりました。1990年代には、サンクトペテルブルク市長のアナトリー・サプチャークのボディーガードとして雇われ、この時に当時副市長だったプーチンと出会いました。ゾロトフはプーチンのボクシングと柔道のスパーリングパートナーとなり、プーチンが公の場に現れる際には常にその背後に控える姿が見られました。

さらに、ゾロトフはローマン・ツェポフが毒殺される前に、彼の民間警備会社「バルチック・エスコート」で勤務していました。この会社は、ゾロトフの助言によって設立され、彼自身もアクティブリザーブのメンバーとして関与していたとされています。この会社は、サプチャーク市長とその家族、副市長のプーチンなど、サンクトペテルブルク市の高官を保護する役割を担っていただけでなく、プーチンのために献上金や「黒い現金」を収集するメカニズムとしても機能していたとされています。

亡命したロシア対外情報庁（SVR）高官のセルゲイ・トレチャコフは、ゾロトフとプーチンが任命したロシア連邦警護庁（FSO）長官のエフゲニー・ムロフが、エリツィン政権時に大統領府長官を務めたアレクサンドル・ヴォローシンを殺害する方法について公然と話し合っていたと主張しています。彼らはまた、「プーチンに野放しの権力を与えるために暗殺する必要のある政治家と影響力のあるモスクワ市民のリスト」を作成していたとされています。このリストの長さから、ゾロトフが「多すぎる」と述べたとされています。

プーチンの側近としての台頭

2000年から2013年まで、ゾロトフはロシア首相、後に大統領となったプーチンの警備責任者兼大統領保安局長を務めました。黒いサングラスと黒いスーツ姿から「メン・イン・ブラック」として知られる警備職員を指揮し、持ち運び可能なロケットランチャーを含む様々な武器を装備していたとされています。

ゾロトフは、チェチェンの独裁者ラムザン・カディロフとも親しい関係を築いています。

国家親衛隊の長官へ

2014年5月12日、ゾロトフはロシア国内軍の司令官に任命されました。2016年4月5日には、旧ロシア国内軍に代わるロシア国家親衛隊の最高司令官に任命され、ロシア連邦安全保障会議のメンバーにも指名されました。

制裁とスキャンダル

2018年4月、アメリカ合衆国は、ウクライナ問題を含むロシア政府の「世界中での悪意ある行動」への対抗措置として、ゾロトフを含む24人のロシア人に制裁を科しました。同年8月には、反腐敗財団の調査により、国家親衛隊の調達契約で少なくとも2900万ドルが盗まれたと告発されました。これに対し、ゾロトフはアレクセイ・ナワリヌイに決闘を挑み、彼を「美味しくてジューシーなひき肉」にすると脅迫しました。さらに、2021年3月2日には、欧州連合理事会がゾロトフに対し、人権侵害の責任があるとして一連の制限措置を課しました。これは、2021年初頭の親ナワリヌイの抗議デモの抑圧に関連しています。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際、ゾロトフは他のシロヴィキ高官とともに、一時的に公の場から姿を消したと報道されましたが、2024年にはクルスクに展開する国家親衛隊の視察で再びメディアに姿を現しました。

私生活と資産

ゾロトフとその家族は、約980万米ドル相当の不動産と2270万米ドル相当の価値がある土地を所有しています。組織犯罪と汚職報道プロジェクト（OCCRP）によると、プーチンはゾロトフに、ソ連崩壊後に労働者や年金受給者に遺贈された国有財産を与えたとされており、労働者たちはゾロトフに財産を騙し取られたと主張しています。彼の娘のジャンナ・ゾロトワはモスクワに500平方メートルのアパートを所有し、息子ラマンも1000万米ドル相当の不動産を所有しています。

まとめ

ヴィクトル・ゾロトフは、プーチン大統領のボディーガードから、ロシア国家親衛隊の局長という要職にまで上り詰めた人物です。その権力と富の背景には、政治的な駆け引きと、汚職の疑いも存在しています。彼の経歴は、ロシアにおける権力構造と、その内情を深く理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

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