ヴィシヴァンカ

ヴィシヴァンカ：ウクライナの伝統と現代の融合

ヴィシヴァンカ（ウクライナ語: вишива́нка）は、ウクライナの伝統的な刺繍を施したシャツやブラウスを指します。その美しさだけでなく、歴史的な背景や文化的な意味合いも深く、ウクライナの人々にとって非常に重要な民族衣装です。

歴史と意味

ヴィシヴァンカは単なる衣服ではなく、着用者を守る魔除けとしての役割も担っていました。特に、首周り、袖口、肩口など、邪気が入り込みやすいとされる箇所に刺繍が施されるのはそのためです。刺繍の模様や色にはそれぞれ意味があり、家族の幸せや健康、繁栄を願う気持ちが込められています。

19世紀から20世紀初頭にかけて、オーストリア＝ハンガリー帝国のヴィルヘルム大公がウクライナを愛し、ヴィシヴァンカを好んで着用したことは、この衣装がウクライナ文化の一部として広く認識されるきっかけとなりました。彼は「刺繍のバジル」という愛称で親しまれ、ウクライナのリヴィウには彼に献名された広場も存在します。

祝祭：ヴィシヴァンカの日

毎年5月の第3木曜日は「ヴィシヴァンカの日」として、世界中のウクライナ人がこの衣装を着用し、民族の団結を祝います。この日は宗教、言語、居住地に関わらず、全てのウクライナ人が自らのアイデンティティと愛国心を表現する日です。ヴィシヴァンカを身に着けることで、祖国への誇りを示すとともに、文化的なつながりを再確認する機会となっています。なお、この日は祝日には指定されていませんが、多くの人々が自発的に参加しています。

ハイファッションとしてのヴィシヴァンカ

近年、ヴィシヴァンカはファッション業界でも注目を集めています。2015年には、ウクライナのデザイナー、ヴィタ・キンが手がけたヴィシヴァンカが、パリ・コレクションでモダン・ボヘミアン・スタイルとして紹介され、『ヴォーグ』や『ハーパーズ バザー』といった主要ファッション誌に取り上げられました。このことで、アンナ・デッロ・ルッソやミロスラヴァ・デュマといったファッションアイコンたちの注目を集め、世界的なトレンドへと発展しました。

『ヴォーグ』は「はるか東欧から波を起こした」とヴィシヴァンカを評し、『ロンドン・タイムズ』は「この夏いちばんの流行の服」と賞賛しました。『ニューヨーク・タイムズ』も追随し、ヴィシヴァンカを「この夏最高の」ファッションアイテムとして読者に推奨しました。2016年には、フランスの女優メラニー・ティエリーとオランダ王妃マクシマ・ソレギエタが、それぞれヴィシヴァンカのドレスを着用して公の場に登場し、その美しさが一層際立ちました。

まとめ

ヴィシヴァンカは、ウクライナの歴史と文化を象徴する衣装であり、魔除けとしての伝統的な意味合いと、現代のファッションとしての魅力を兼ね備えています。ヴィシヴァンカの日は、世界中のウクライナ人がそのルーツを再確認し、民族の団結を祝う大切な日です。また、ハイファッションの舞台での露出により、その美しさは世界中に広まり、国境を越えて多くの人々を魅了しています。

参考文献

Condra, Jill (2013). Encyclopedia of National Dress: Traditional Clothing Around the World. ABC-CLIO. pp. 624.
Gurga, JJ (September 2012). Echoes of the Past: Ukrainian Poetic Cinema and the Experiential Ethnographic Mode (pdf) (Ph.D.). University College London (UCL). pp. 189–190.
Koziura, Karolina (Spring 2014). “Everyday Ethnicity in Chernivtsi, Western Ukraine.”. Anthropology of East Europe Review 32 (1).

関連項目

ヴィノク
* 草木染め

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