ヴィッカース軽戦車

ヴィッカース軽戦車シリーズ：戦間期のイギリス軽戦車の系譜

本稿では、戦間期にイギリスのヴィッカース社がイギリス陸軍向けに開発・生産したヴィッカース軽戦車シリーズについて解説します。Mk.IからMk.VIIIまで存在する同シリーズは、その設計思想や運用面において、第二次世界大戦勃発前後の軽戦車開発史に重要な足跡を残しました。

概要：多様な軽戦車の展開

第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、イギリス軍はヴィッカース軽戦車シリーズを含む様々な軽戦車を運用しました。これらの軽戦車は主に訓練用途に用いられましたが、南アフリカ軍による東アフリカ戦線への投入など、限定的な実戦参加例も確認できます。

全車種共通の特徴として、約5.1トンの車体重量、路上最大時速48km、不整地走行時最大時速約32kmといった性能を有していました。イギリス軍は、本シリーズを他の軽戦車以外への投入を想定していなかったため、兵装は7.7mmまたは12.7mmのヴィッカース重機関銃に限定されていました。サスペンションにはホルストマン・コイルスプリングを用いたボギー式を採用し、エンジンはメドウス製6気筒ガソリンエンジンを搭載しました。乗員は、Mk.Vまでは操縦手と車長兼機銃手の2名でしたが、Mk.V以降は車長、機銃手、操縦手の3名体制となりました。

Mk.IからMk.VIまでは設計思想に共通点が見られますが、Mk.VIIとMk.VIIIはそれらとは全く異なる設計となっています。Mk.Vは設計の最適化が進められたモデルであり、その設計思想は最後の派生型であるMk.VIに受け継がれています。戦争の勃発が懸念された当時、Mk.VIはイギリス陸軍の戦力増強計画において重要な戦車として選定されました。

開発：タンケッテからの進化

1920年代後半、機械化兵力の急速な発展に伴い、イギリス陸軍は歩兵支援用の機関銃搭載型と、正規戦車部隊向けの旋回砲塔搭載型という二種類の装軌車両の必要性を認識しました。

歩兵支援車両としては、カーデン・ロイド豆戦車が採用されました。偵察車両や移動式機関銃座としての運用を想定したカーデン・ロイドMk.VI豆戦車は、カーデン・ロイド社による豆戦車シリーズの最終型であり、後のユニバーサルキャリアの試作車にも繋がりました。

一方、カーデン・ロイド社は、独自の砲塔を搭載した二人乗り軽戦車の開発も進めていました。同社は当時ヴィッカース・アームストロング社の一部門であったため、カーデン・ロイドMk.VII試作軽戦車は、ヴィッカース軽戦車シリーズへと繋がる重要な開発段階となりました。この試作車は7.7mmヴィッカース重機関銃を装備し、メドウスエンジンによる高い機動性を誇っていましたが、制式採用には至りませんでした。

Mk.I～Mk.VI：改良を重ねた基本設計

Mk.I軽戦車は、カーデン・ロイドMk.VII試作軽戦車をベースに、車体構造の強化や銃塔デザインの変更などが施されました。Mk.IAでは上部構造の拡大とホルストマンサスペンションへの変更が行われ、居住性と走行性能の向上が図られました。その後も、Mk.II、Mk.III、Mk.IVと改良が重ねられ、エンジン出力やサスペンション、兵装などが段階的に向上していきました。特にMk.Vでは乗員が3名となり、12.7mm機関銃の追加により戦闘能力が向上しました。Mk.VIはMk.Vをベースにさらに改良が加えられ、大量生産されました。

Mk.VIIとMk.VIII：新たな設計思想

Mk.VIIテトラークとMk.VIIIハリー・ホプキンスは、Mk.I～Mk.VIとは異なる設計思想に基づいて開発された軽戦車です。これらの車両については、本稿では詳細を割愛しますが、ヴィッカース軽戦車シリーズの技術的発展において重要な役割を果たしたことは間違いありません。

輸出と戦歴：世界各地での活躍と終焉

ヴィッカース軽戦車は、イギリス国内だけでなく、フィンランド、リトアニア、アルゼンチン、ベルギー、スイス、オランダ領東インド、中国など、世界各国に輸出されました。ベルギー向けにはT-15軽戦車として改良されたモデルも存在します。

第二次世界大戦においては、一部のヴィッカース軽戦車がフランス戦線や北アフリカ戦線などに投入されましたが、その役割は限定的なものでした。1942年以降は、主に訓練用途に用いられ、その後は役目を終えました。

まとめ：軽戦車開発史における貢献

ヴィッカース軽戦車シリーズは、戦間期におけるイギリスの軽戦車開発において重要な位置付けを占めています。その設計思想や技術的発展は、後の戦車開発にも影響を与え、軽戦車の進化に貢献しました。本シリーズの各モデルの特性や改良点、そして世界各国での運用状況を理解することで、第二次世界大戦前後の軍事技術史をより深く理解することができるでしょう。

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