ヴィドゥキント

ヴィドゥキント：ザクセンの抵抗と伝説の英雄

ヴィドゥキント（Widukind/Wittekind, 730年頃 - 808年?）は、8世紀に活躍したザクセン人の首領であり、ザクセン公として知られています。ヴェストファーレン貴族のリーダーとして、フランク王国のカール大帝によるザクセン戦争において抵抗し、最終的にカール大帝に降伏、ローマ教皇レオ3世に服してキリスト教に改宗しました。彼の生涯は、ザクセン人の独立と屈服、そして異教に対するキリスト教の勝利を象徴する伝説的な物語として語り継がれています。

ザクセン戦争とヴィドゥキントの抵抗

772年、フランク王国のザクセン侵攻を機に、ザクセン戦争が勃発しました。当初、ザクセンは激しく抵抗しましたが、最終的にはフランク王国の支配下に置かれることになります。ヴィドゥキントが歴史に登場するのは777年、フランク側の記録において、彼がデンマークへ赴き、フランクに対抗するための会合を開いたという記述です。

778年、カール1世（後のカール大帝）がスペイン遠征に出かけると、ヴィドゥキントはザクセンに戻り、部族を率いてフランクの領土を略奪しました。しかし、カールの帰還により状況は一変し、ヴィドゥキントの部族は攻撃を受け、多くのザクセン人が処刑されました。特に、ヴェーザー川支流のアラー川河畔での4500人もの捕虜処刑は、カールの宮廷で活躍した僧アルクィンによって記録されています。ヴィドゥキントはその後、逃亡生活を余儀なくされました。カール大帝はヴィドゥキントに対し、降伏とキリスト教への改宗を呼びかけました。

785年、ヴィドゥキントはついに部族と共に降伏し、洗礼を受けました。これ以降、彼はサクソン戦争に関与することなく、修道院で隠遁生活を送ったと伝えられています。

ヴィドゥキントにまつわる伝承

ヴィドゥキントの改宗は、キリスト教の勝利を象徴する出来事として捉えられ、教会の絵画や彫刻にその姿が数多く描かれました。彼は808年にヘルフォルト近郊のエンガーに埋葬されたとされていますが、9世紀のものと思われる墓標が発見されていないため、この地に埋葬されたという伝承には疑問も残ります。

また、伝承によれば、ヴィドゥキントは洗礼前には黒い馬に乗り、洗礼後は白い馬に乗ったとされています。ヘルフォルト郡の紋章はヴィドゥキントの黒い馬に由来し、ノルトライン＝[[ヴェストファーレン州]]とニーダーザクセン州の州章はヴィドゥキントの白い馬に由来しています。

ヴィドゥキントの子孫

ヴィドゥキントの後裔とされるイメディング家のマティルデは、リウドルフィング家のザクセン公ハインリヒ1世と結婚しました。リウドルフィング家はフランク王国内で勢力を拡大し、ハインリヒ1世は後に王となりザクセン朝を開きました。さらに、ハインリヒ1世の子であるオットーは、962年に初代神聖ローマ皇帝オットー1世となりました。したがって、オットー1世以降のザクセン朝の神聖ローマ皇帝は、ヴィドゥキントの子孫とされています。また、『ザクセン人の事績』を著したコルヴァイのヴィドゥキントも、ヴィドゥキントの後裔である可能性が指摘されています。

ヴィドゥキントは、ザクセンの独立をかけてフランク王国に抵抗した英雄であると同時に、キリスト教を受け入れ、その後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えた人物として、語り継がれています。

参考文献

• - コルヴァイのヴィドゥキント、三佐川亮宏 訳 『ザクセン人の事績』 知泉書館、2017年

関連項目

• - ザクセン君主一覧
• - ザクセン戦争 (カール大帝)

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