ヴィルヘルム・シッカート

ヴィルヘルム・シッカート：世界初の自動計算機を作った男

ヴィルヘルム・シッカート（Wilhelm Schickard, 1592年4月22日 - 1635年10月24日）は、17世紀に生きたドイツの学者であり、ヘブライ語の教授でした。彼は、世界で初めて自動計算機を製作した人物として知られています。

生涯と業績

シッカートはドイツのヘレンベルクで生まれ、テュービンゲンで亡くなりました。テュービンゲン大学で教鞭を執る傍ら、彼は独学で数学や天文学を研究し、その過程で計算機の開発に着想を得たとされています。

計算機「計算する時計」

シッカートが製作した計算機は、当時「計算する時計（Calculating Clock）」と呼ばれていました。この機械は、ブレーズ・パスカルのパスカリーヌやゴットフリート・ライプニッツの計算機よりも20年ほど早く、機能は限定的でしたが、自動計算機の先駆けとして重要な意味を持っています。

シッカートは、ヨハネス・ケプラーに宛てた手紙の中で、この計算機を天体計算にどのように利用できるかを示していました。彼の専門であるヘブライ語の文法が、計算機の製作に大きく影響を与えたとも言われています。

「計算する時計」は、6桁の加減算が可能で、オーバーフロー時にはベルが鳴る仕組みを備えていました。また、複数のネピアの骨を使用することで、より複雑な乗算も行うことができました。

現代への影響

シッカートのデザインは20世紀まで忘れ去られていましたが、1960年にそのレプリカが製作され、彼の業績が再評価されるようになりました。彼の計算機はプログラム可能ではありませんでしたが、自動計算機の概念を初めて具現化したという点で、現代のコンピュータの基礎を築いたと言えるでしょう。

プログラム可能なコンピュータの構想は、シッカートから約200年後のチャールズ・バベッジによって提唱されましたが、完成には至りませんでした。実際にプログラム可能なコンピュータが製作・実働したのは、シッカートから300年以上後の1941年、コンラート・ツーゼによって開発されたZ3でした。

シッカートの功績を称え、月面にあるクレーターには「シッカートクレーター」と名付けられています。彼の名は、人類の知的好奇心と技術革新の歴史に永遠に刻まれることでしょう。

シッカートの計算機は、現代の複雑なコンピュータとは比較にならないほど単純なものでしたが、その革新的なアイデアは、後の科学者や技術者たちに大きな影響を与えました。彼は、まさにコンピュータの歴史におけるパイオニアの一人と言えるでしょう。

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