ヴィロファージ (Virophage)
ヴィロファージは、特定の
ウイルスに感染した細胞内でその
ウイルスの増殖に依存して自身の粒子を増やしながら、同時に
宿主となる
ウイルスの複製活動を阻害し、害を与える特殊な性質を持つ
ウイルスです。その名前は「
ウイルスを食うもの」を意味し、一般的な
ウイルスとは異なる生態を示す存在として注目されています。
発見の経緯
ヴィロファージは、2008年に巨大なDNA
ウイルスであるミミ
ウイルスの研究中に初めて発見されました。特に、ミミ
ウイルスの特定の系統に随伴する形で存在する小さな
ウイルスとして見出され、最初に確認されたものは「スプートニク(Спутник)」と名付けられました。これはロシア語で「衛星」を意味し、巨大なミミ
ウイルスに寄り添うように存在することに由来します。この発見以降、同様の性質を持つ
ウイルスが複数見つかり、「ヴィロファージ」という一般名で総称されるようになりました。
特徴と生態
ヴィロファージの最大の特徴は、その増殖のために他の
ウイルスが必要であるという点です。特に、アメーバなどに感染する巨大
ウイルス(メガ
ウイルス、ミミ
ウイルス、カフェテリア
ウイルスなど)が
宿主細胞内で活動している際に、その複製機構や材料を利用して自身を増やします。しかし、単に依存して増殖するだけでなく、
宿主となる
ウイルスの正常な
ウイルス粒子(
ビリオン)の形成を妨害し、不完全な粒子を多く生じさせるなど、
宿主ウイルスに明確な悪影響を及ぼすことが確認されています。このような
宿主ウイルスへの害は、従来の
ウイルス学でいう「
寄生」という関係性に当てはまると考えられています。
サテライトウイルスとの違い
他の
ウイルスの助けを借りて増殖する
ウイルスとしては、サテライト
ウイルスも知られています。サテライト
ウイルスもヘルパー
ウイルス(助けとなる
ウイルス)が存在しないと増殖できませんが、一般的にはヘルパー
ウイルスや
宿主細胞に大きな害を与えない、あるいはむしろ
共生関係に近いとされることが多いです。これに対し、ヴィロファージは明確に
宿主ウイルスに害を与える点で、サテライト
ウイルスとは異なる生態を持つと考えられており、この点がヴィロファージを独自のカテゴリーとして区別する根拠の一つとなっています。
分類
ヴィロファージは、プリクラウソ
ウイルス目(Priklausovirales)のラウィダリ
ウイルス科(Lavidaviridae)に分類されています。この科には複数の属や種が含まれており、発見された
宿主ウイルスによっていくつかのタイプが知られています。
ラウィダリウイルス科 (Lavidaviridae)
マ
ウイルス属 (Mavirus)
カフェテリア
ウイルス依存性マ
ウイルスなど
スプートニク
ウイルス属 (Sputnikvirus)
ミミ
ウイルス依存性
ウイルス・スプートニク(
スプートニクヴィロファージ)
ミミ
ウイルス依存性
ウイルス・ザミリオン(ザミリオンヴィロファージ)など
意義
ヴィロファージの発見は、
ウイルス間の相互作用が単なる競争や捕食・被食の関係だけでなく、複雑な「
寄生」関係も存在することを示しました。これは
ウイルス生態系や進化、さらには巨大
ウイルスの研究において重要な示唆を与えています。アメーバなどの環境中に生息する巨大
ウイルスに普遍的に付随している可能性も指摘されており、今後の研究によってさらなる多様なヴィロファージが発見されることが期待されています。