ヴイナス戦記

『ヴイナス戦記』（The Venus Wars）は、安彦良和による漫画作品、およびそれを原作としたアニメ映画です。1987年から1990年にかけて漫画雑誌『コミックNORA』で連載され、1989年には劇場アニメが公開されました。

概要

本作は、安彦良和が手掛けた『アリオン』『クルドの星』に続く3作目の連載漫画です。舞台は未来の金星。人類が植民した金星を舞台に、二大勢力間の軍事衝突を背景として、少年ヒロと青年士官マティウの視点から物語が展開されます。安彦作品の特徴である、歴史ドキュメンタリーのようなタッチで描かれている点も魅力です。

物語は大きく二つのパートに分かれています。一つは、アフロディアの戦闘バイク部隊に志願した少年ヒロの戦いを描く「ヒロ編」。もう一つは、終戦後のイシュタルで繰り広げられる覇権争いに巻き込まれた青年士官マティウの運命を描く「マティウ編」です。

漫画は第二部で連載が休止となりましたが、ヒロ編をベースとしたアニメ映画が1989年に公開されています。

あらすじ

21世紀初頭、金星は小惑星との衝突「グレート・バンプ」により、環境が激変し、人類が居住可能な惑星となりました。半世紀後、金星は軍事国家イシュタルと、豊かな土地を持つアフロディアの二つの自治州に分かれ、対立を深めていました。

アフロディアに住む少年ヒロは、生きる目標を見つけられずにバイクゲームに明け暮れていました。そんなある日、彼は軍の技術士官シムスにスカウトされ、戦闘バイク部隊“HOUND”の一員となります。やがてイシュタルの侵攻が始まり、ヒロは戦火に身を投じることになります。

終戦後、イシュタルでは権力闘争が激化。現執政レーベンドルフと軍司令ワルデマルが対立しますが、ラドー少佐の陰謀により二人とも命を落とします。レーベンドルフの未亡人グートルーネが実権を握り、陰謀に巻き込まれたマティウ准尉は、ラドー少佐に戦いを挑む決意をします。

主な登場人物

アフロディア側

ヒロキ・セノオ（ヒロ）: バイクボウルチーム「キラーコマンダー」のフルバック。抜群の操縦技術でHOUNDにスカウトされる。地球へ行くことを夢見ている。
マーゴット・ナカモト（マギー）: ヒロの女友達で、「キラーコマンダー」のマスコット兼メカニック。
ミランダ・コッカー: 「キラーコマンダー」のクイーン。HOUNDに志願し戦死。
マクマード・シムス: HOUND総指揮官。武装バイクを開発。
ジェフリー・カーツ: HOUND指揮官。

イシュタル側

クラウス・ワルデマル: イシュタル軍総司令官。次期執政の座を狙う。
ダンクバルト・ラドー: イシュタル軍総司令部付副官。野心家。
マティウ・シム・ラドム: イシュタル親衛隊准尉。ラドーの陰謀に巻き込まれる。
ルイザ・フェレオラ: イシュタル軍主計局少尉。マティウの想い人。

メカニック

アフロディア

HOUND: アフロディア軍開発局が開発した新型軍用バイク。セラミック製の装甲カウルで覆われている。武装は対戦車ライフル砲、ミサイル、機関砲。

イシュタル

アドミラルA-1戦車: イシュタル軍主力戦車。重装甲と強力な砲撃能力を持つ。
アタッカー: ティルトウイング式の小型地上攻撃機。

アニメ版

アニメ版では、メカニックデザインが大幅に変更され、キャラクターも追加されています。特に、地球から来たジャーナリスト、スゥ（スーザン・ソマーズ）は、視聴者に金星の文化を紹介する役割を担っています。アリゾナ州化石の森国立公園でロケーション撮影が行われ、戦闘バイクシミュレーター内の風景として使用されました。

安彦良和によるBlu-rayソフト許諾に至る経緯

安彦良和は本作で監督を務めましたが、興行的な成功には至りませんでした。その後、アニメ制作から離れていましたが、2015年に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で総監督として復帰しました。

長らくDVDの発売を許可していませんでしたが、公開30周年を記念したイベント上映を機に、考えを改め、2019年にBlu-rayソフトが発売されました。安彦は「今は作品（とファン）に詫びたい気持ち」「観てやってほしいと切に願う」とコメントしています。

テレビ放送

BS12『日曜アニメ劇場』枠で2023年7月30日に放送されました。

評価

脚本家の會川昇は、本作について、戦争に直面した若者が軍隊に組み込まれるというロボットアニメのテンプレへの問いかけを描きつつも、監督自身が軍隊を嫌悪しているため、話が破綻していると指摘しています。

ヴイナス戦記