ヴォーバンの防衛施設群

ヴォーバンの防衛施設群：フランスの軍事建築遺産

2008年、フランスの12箇所に点在する軍事施設群が、ユネスコの世界遺産に登録されました。この「ヴォーバンの防衛施設群」は、17世紀から18世紀にかけて活躍したフランスの軍事建築家、セバスチャン・ル・プレスト・ド・ヴォーバンが設計・築造した要塞や城壁、都市防衛施設を包含する貴重な遺産です。

ヴォーバンの功績と世界遺産登録

ヴォーバンは、その類まれな軍事建築の才能で、フランスの防衛体制を大きく強化しました。彼は150以上の要塞を設計し、近代要塞建築の基礎を築いた人物として知られています。彼の設計した要塞は、単なる軍事施設にとどまらず、地形や地勢を巧みに利用した戦略的な配置、革新的な建築技術、そして都市計画との融合など、多角的な視点が反映されています。

ヴォーバンの防衛施設群の世界遺産登録は、ブザンソン市が中心となり、長年にわたる取り組みの成果でした。2003年から世界遺産への登録を目指す取り組みが始まり、専門家の意見を参考に、ヴォーバンの代表的な作品を選定。2005年には8都市、2006年には最終的に14都市が候補として選定されましたが、最終的には12都市の施設が登録されました。

登録された12都市の防衛施設

登録された施設は、フランス各地に点在し、それぞれが独自の個性と歴史的価値を持っています。主な登録物件は以下の通りです。

アラス (パ＝ド＝カレー県): シタデル（城塞）
ブザンソン (ドゥー県): シタデル、市壁、グリフォン砦
ブライとキュサック＝フォール＝メドック (ジロンド県): ブライ城塞、市壁、パテ砦、メドック砦
ブリアンソン (オート＝アルプ県): 市壁、レ・サレット砦、トロワ・テート砦、ランドゥイエ砦、ouvrage de la communication Y1、アスフェルド橋
カマレ＝シュル＝メール (フィニステール県): 黄金の塔
ロンウィ (ムルト＝エ＝モゼル県): 新市街
モン＝ドーファン (オート＝アルプ県): 要塞
モン＝ルイ (ピレネー＝オリアンタル県): シタデル
ヌフ＝ブリザック (オー＝ラン県): 新市街
サン＝マルタン＝ド＝レ (シャラント＝マリティーム県): シタデルと城壁
サン＝ヴァースト＝ラ＝ウーグ/タチウ (マンシュ県): 見張りの塔群
ヴィルフランシュ＝ド＝コンフラン (ピレネー＝オリアンタル県): 城壁、リベリア砦、Cova Bastera

これらの施設は、平野、海岸、山岳地帯など、多様な地形に適応した設計となっており、ヴォーバンの柔軟な発想と卓越した技術力を物語っています。また、保存状態も極めて良好で、当時の姿を現在に伝えています。

登録基準と意義

ヴォーバンの防衛施設群は、ユネスコの世界遺産登録基準のうち、以下の3つの基準を満たしているとして登録されました。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

この世界遺産登録は、ヴォーバンの軍事建築における偉大な功績を世界的に認め、その歴史的・文化的価値を後世に伝える上で重要な意義を持っています。これらの施設は、軍事史研究にとどまらず、建築史、都市計画史、そして観光資源としても重要な役割を果たしています。

もう一度検索