ヴォー村

ヴォー村

フランスの海外領土であるニューカレドニア北州に位置する基礎自治体、ヴォー村（Voh）は、太平洋上に浮かぶこの島特有の自然と歴史、そして多様な文化が織りなす地域です。

ヴォー村を象徴する最も有名な景観は、「ハート オブ ヴォー」（The Heart of Voh）と呼ばれる広大なマングローブ林の中に自然に形成された植生です。このユニークな形状は、上空から眺めると巨大なハート型に見えることからその名がつけられました。この心臓形の森は、著名なフランス人写真家ヤン・アルテュス・ベルトラン氏によって航空写真に収められ、彼の世界的な写真集の表紙を飾ったことで一躍有名となりました。この写真は、環境問題への関心を高めるきっかけともなり、ヴォー村、さらにはニューカレドニア全体の自然美を象徴する存在となっています。

経済的には、ヴォー村は豊富なニッケル資源を産出するコニアンボ鉱山に最も近い主要な居住地として発展してきました。鉱業は地域に雇用と新たな富をもたらす一方で、一時的な労働人口の流入に伴う社会的な課題も生じさせています。歴史的には、1800年代から1940年代にかけて、季節労働者として働いたベトナム人鉱夫たち（通称「チャンダン」）がこの地に暮らしていました。また、かつては農業が盛んでしたが、近年ではより環境負荷の少ない、持続可能なコーヒー生産への転換が進められています。

ヴォー村の歴史は、フランスによるニューカレドニア植民地化の過程と深く結びついています。1865年には、近くで砦を建設していた労働者をカナックの人々が襲撃し、砦は数年後に放棄されるという衝突が発生しました。その後、フランス政権は1891年にヴォー村をフランスからの自由移民にとっての入植適地と定めました。カナックの人々が自発的に放棄したとされる川の右岸の土地、約950ヘクタールが、農業用の土地として割り当てられ、住宅地、耕作地、放牧地へと区分けされました。翌1892年後半までには、ジョルジュ・ワイスやジャン＝フランソワ・ジョクトーら23人のヨーロッパ人入植者が到着し、開墾と耕作を開始しました。入植地は後に川の左岸にも拡大し、1894年には当時の知事ポール・フィレットが村を訪れ、入植事業の成功を称える演説を行うなど、公的な認知も進みました。

村の人口構成は多様であり、1996年の統計によれば、先住民族カナックが67.4%を占めるほか、ヨーロッパ系民族が25.2%、ポリネシア系が2.8%、その他が5.1%となっており、様々なルーツを持つ人々が共に暮らしています。

ヴォー村にゆかりのある人物として特筆すべきは、アンドレ・ダンヴァンニャチャン氏です。彼は1936年にベトナムの強制労働収容所に送られるという過酷な経験を持ちながらも、後に巨大鉱山企業であるSMSP社の主要な幹部、そして支配的な利権を持つ人物となりました。彼の父は1937年の波止場建設中に亡くなり、村内の墓地に埋葬されています。

ヴォー村は、「ハート オブ ヴォー」に代表される豊かな自然景観、ニッケル鉱業を中心とした産業、そしてフランス植民地化から続く複雑な歴史、多様な民族が共生する社会という、多面的な魅力を持つ場所と言えるでしょう。

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