ヴャチェスラフ・イヴァーノフ

ヴャチェスラフ・イヴァーノフ（Vyacheslav Ivanovich Ivanov, 1866年2月28日 - 1949年6月16日）は、20世紀ロシアを代表する作家、詩人、そして思想家です。彼の生涯は、学問と芸術が深く結びついたものであり、ロシア象徴主義の発展に大きな影響を与えました。

生涯

モスクワで生まれたイヴァーノフは、モスクワ大学で哲学と歴史を学びました。彼の学問的な関心は多岐にわたり、ヴィクトル・ヴィノグラードフのような著名な教師から指導を受けました。その後、ベルリン大学に留学し、テオドール・モムゼンのもとでローマ法と経済を研究しました。このドイツ滞在中に、フリードリヒ・ニーチェの哲学やノヴァーリス、フリードリヒ・ヘルダーリンの文学に触れ、大きな影響を受けました。これらの思想や文学的探求は、後のイヴァーノフの作品に深く反映されています。

1892年からはローマで考古学の研究に従事し、博士号を取得しました。ローマ滞在中に出会った詩人リディア・アンニバルと結婚し、共にアテネ、ジェノヴァ、エジプト、パレスチナなどを旅しました。この経験は彼の作品に異文化への関心を加え、より豊かな表現を可能にしました。

1905年からはサンクトペテルブルクで文学サークル「塔」（башня）を主宰し、ロシア象徴主義の第二世代の理論的指導者として活躍しました。彼のサロンには、当時の重要な文化人や知識人が集まり、活発な議論が交わされました。ロシア革命後の1920年にはバクー大学に移り、その後1924年に亡命してローマに移り住みました。1926年にはカトリックの洗礼を受け、信仰生活を送りました。晩年はパヴィア大学やフィレンツェ大学でスラヴ学を講義し、ローマでその生涯を閉じました。

思想

イヴァーノフの思想は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、ドイツ観念論、スラヴ主義、ウラジーミル・ソロヴィヨフ、そしてニーチェなどの影響を受けて形成されました。彼は単なる詩人や作家ではなく、博識な文献学者であり、卓越したギリシャ学者、そして鋭い批評家でもありました。彼の詩は、教会スラヴ語に由来する難解な表現が多く、しばしば注釈を必要とします。イヴァーノフの思想は、保守的、神秘主義的、アナーキスト的、心霊主義的、愛国的、共産主義的など、表面上は多様に変化しているように見えますが、その根本には一貫したテーマが存在します。

それは、キリスト教とディオニュソス主義を同一視する傾向であり、彼の美学はリヒャルト・ワーグナーの立場に近いものでした。イヴァーノフは、ディオニュソスの悲劇的な運命を重視し、「神の手足切断」とその復活を「生の神秘の鍵」と捉えました。彼は、女性と男性、我と汝、単一と多数、自然と人間、地球と太陽を、それぞれディオニュソスとアポロンの象徴として解釈しました。アポロンは、記憶における幻想の力と個人化の原則を象徴し、ディオニュソスは存在の高揚を具現し、苦痛、犠牲、恐怖、そして悲劇的な忘却などを象徴すると考えました。

イヴァーノフは、彼自身の時代を変化と混乱の時代と捉え、文化は新しく生まれ変わる前に一度死ななければならないと考えました。彼は、野蛮人の侵入や破壊の仕事を歓迎し、芸術家は価値観の転換のために召されていると主張しました。1911年以降、モスクワに居住してからはロシアやスラヴ民族の運命に関心を深め、象徴派運動を民族主義的な方向に導く役割を果たしました。

著作

イヴァーノフは、詩集、論文集など、多くの著作を残しました。

詩集
『導きの星』Кормчие звёзды（1903年）
『エロス』Эрос（1907年）
論文集
『星を追って』По звёздам（1909年）
『あぜと境界』Борозды и межи（1916年）
『祖国と宇宙』Родное и вселенское（1917年）

これらの著作は、彼の思想と文学的才能を今に伝える貴重な資料となっています。

参考文献

ニコライ・ベルジャーエフ『ロシア思想史』ぺりかん社、1974年
* 『深き淵より ロシア革命批判論文集2』現代企画社、1992年

イヴァーノフの多岐にわたる思想と文学活動は、20世紀ロシア文化を理解する上で欠かせない要素であり、彼の作品は現代においてもなお、多くの読者や研究者に影響を与え続けています。

もう一度検索