ヴラド2世(ヴラド・ドラクル):ワラキア公、竜公の生涯
ヴラド2世、またはヴラド竜公(ヴラド・ドラクル)は、15世紀の
ワラキア公であり、その生涯は政治的な策略と軍事的な衝突に彩られています。
1436年から
1442年、そして
1443年から
1447年まで
ワラキア公の地位にあり、ドラクレシュティ家の祖として知られています。
ドラゴン騎士団と「竜公」の異名
ヴラド2世は、
カトリック教会の支持を得て、
オスマン帝国からの防衛を図るため、1431年にハンガリー王ジギスムント(後の
神聖ローマ皇帝)によって設立されたドラゴン騎士団に叙任されました。この騎士団に由来して、彼は「竜公(ドラクル)」と呼ばれるようになりました。この「ドラクル」は、後に「悪魔公」とも解釈されるようになります。
生涯
公位を巡る争い
1431年、ヴラド2世の異母兄であるアレクサンドル1世アルデアが、ダネシュティ家のダン2世から
ワラキア公位を奪いました。
1436年、ヴラド2世は
トランシルヴァニアから帰還し、アレクサンドル1世を追放して自身が公位に就きました。
ヴラド2世は、
トランシルヴァニア侯
フニャディ・ヤーノシュに対抗するために、
オスマン帝国の宮廷へ赴き支持を得ようとしました。その結果、
1442年には息子のミルチャ2世が公位を継承することになります。
1442年のスンティンブルの戦いの後、フニャディは
ワラキアに侵攻し、ヴラド2世に服従を迫りました。
1443年には、フニャディに率いられた軍によってミルチャ2世が地位を追われ、バサラブ2世が公位に就きます。しかし、バサラブ2世は短期間で失脚し、
オスマン帝国の支援を受けたヴラド2世が再び公位を奪還しました。ヴラド2世は、
オスマン帝国との和平を結び、
ワラキアの少年たちを
オスマン帝国の軍隊に奉仕させること、そして毎年貢物を納めることを約束しました。また、息子であるヴラド3世(串刺し公)とラドゥ3世を人質として
オスマン帝国に差し出しました。
1443年、ハンガリー王ウラースロー1世(ポーランド王ヴワディスワフ3世ヴァルネンチク)は、フニャディの指揮のもと、
オスマン帝国をヨーロッパから駆逐するための
ヴァルナ十字軍を起こしました。フニャディはヴラド2世に対し、ドラゴン騎士団の一員として、またハンガリー王家の臣下として従軍を命じましたが、ヴラド2世はこれを拒否しました。
教皇エウゲニウス4世はヴラド2世の義務を免除しましたが、代わりに息子のミルチャ2世を派遣することを要求しました。ヴァルナの戦いでキリスト教軍は壊滅し、フニャディは敗走の責任を問われかけましたが、これまでの功績により赦免されました。しかし、この事件でフニャディはヴラド2世とミルチャ2世を深く恨むことになりました。
最期
1447年12月、ハンガリーの摂政となったフニャディは、ヴラド2世に対して軍を起こしました。敗北したヴラド2世は、バルテニ近くの沼地で自国の有力者によって殺害されました。彼の長男であるミルチャ2世も目を潰された上で、トゥルゴヴィシュテで生き埋めにされました。
家族
ヴラド2世の最初の妻は特定されていません。後妻である
モルダヴィア公女ヴァシリッサは、アレクサンドル善良公の長女であり、シュテファン3世の父方の叔母にあたります。
ヴラド2世には、ミルチャ2世、ヴラド4世僧公、ヴラド3世(串刺し公・ドラクリヤ)、ラドゥ3世(美男公)の4人の息子がおり、彼らは皆、後に
ワラキア公の地位に就きました。また、多くの愛人を持ち、非嫡出子もいました。
ヴラド2世の生涯は、
ワラキア公としての地位を維持するための絶え間ない戦い、
オスマン帝国との複雑な関係、そして
フニャディ・ヤーノシュとの対立に彩られています。彼の息子であるヴラド3世(串刺し公)は、その残忍な行為から「ドラキュラ」のモデルとなった人物として知られています。