一九五二年日航機「撃墜」事件

一九五二年日航機「撃墜」事件

松本清張が最後に発表した長編小説『一九五二年日航機「撃墜」事件』は、1952年に発生したもく星号墜落事故を題材にして描かれています。この作品は、1992年4月に刊行され、40年後の再考を提起しており、作家としての松本の思索が詰まった一冊です。

あらすじ

物語は1963年、明和産業の宣伝部長である下坂孝一が偶然見つけた洋書がきっかけとなります。この書物にはICAOによる民間航空機事故の記録が含まれており、もく星号墜落事故に関する不自然な脱漏について疑問を抱かせる書き込みがありました。彼は新聞社の嘱託である岸井善太郎と共に、事故発生当時の報道資料を丁寧に調べ始めるのです。

下坂たちが掘り起こした情報には、アメリカ空軍が捜索を行なっていた間に、実際には事故現場に兵士を派遣して証拠を隠蔽した可能性が浮かび上がります。彼らは元パイロットの山口五郎を交え、村上運輸大臣が言及した「東京モニター」にまつわる謎についても考察します。

次第に、下坂は事故調査報告書に欠けている重要な情報を見つけ出します。具体的には、アメリカ四軍機が付近を航行中であったという発言が報告書には記載されていないことに気づくのです。また、補助翼タブの未発見情報もあり、これがアメリカ軍機からの攻撃の結果であるのではないかという仮定を立てます。

さらに下坂は、もく星号の乗客で唯一の女性客であった烏丸小路万里子の過去に迫ります。彼女はダイヤモンドの売買に関わっていたという事実が、案件の陰に隠されたスキャンダルを示唆しているのではないかと考えていました。彼は万里子が関わっていた事件や人々の手がかりを探し求め、訪問や聞き込みを行いますが、期待通りの結果には至りません。

物語を進める中で、下坂、岸井、山口は再び集結し、もく星号の墜落が国連軍によるものであるとの説にたどり着きます。彼らは、烏丸小路万里子のダイヤモンドに関する問題を隠すため、アメリカ空軍が情報統制を行っていたと結論づけます。副題に込められた暗示もまた、事故の真実を追求する姿勢を強調し、彼らの視点が日々変化する中で、いかに歴史が形作られるのかを探求しています。

松本清張は本作を通じて、一般市民が受け取る情報の不完全さや、権力者がその背後で行動することの恐ろしさを表現しています。その一方で、登場人物たちの思いやりや探求心が、リアリズムに一層の奥行きを与える結果となっています。また、文学的な手法を駆使し、社会的な闇を照らし出す松本の視点が際立ちます。

登場人物

• - 下坂孝一: 明和産業の宣伝部長で、作品を通じて真相追求の中心となる。
• - 岸井善太郎: 新聞社の嘱託で、下坂の思索に影響を与える存在。
• - 山口五郎: パイロットの経歴を持ち、事故調査の知見を有する。
• - 烏丸小路万里子: もく星号の唯一の女性客で、ダイヤモンドの扱いを通じて事件の中心に立つ。

この物語は合成的且つ探求的な情緒に満ちており、読み手に対して深い思索を促します。事故に対する認識が変わるにつれ、私たちは自身もまた物語の一部になっていることに気づくのです。

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