もく星号墜落事故

1952年 4月9日、日本航空の定期旅客機「もく星号」が伊豆大島火口付近の山腹に激突し、乗員乗客37名全員が死亡するという痛ましい事故が発生しました。この事故は、戦後初の民間航空機事故として、当時大きな衝撃を与えました。

事故の概要

「もく星号」は羽田空港を離陸後、大阪経由で福岡へ向かう予定でした。しかし、伊豆大島上空で消息を絶ち、翌日、三原山の山腹に墜落しているのが発見されました。事故当時、現場は暴風雨と濃霧という悪天候に見舞われていました。

事故発生直後、アメリカ軍から「乗員乗客全員救助」といった誤った情報が流れ、捜索活動を混乱させました。また、高度6000フィートで大島上空を通過するはずの機体が、海抜2000フィートの三原山に激突したという事実は、大きな謎とされました。

運輸省の航空事故調査会は、事故原因を人為的ミスに絞り込み、アメリカ軍に交信記録の提出を求めましたが、拒否されました。最終的に、事故原因は推定のまま残され、高度計異常説、爆破説、米軍謀略説など、様々な憶測が飛び交いました。事故発生の同月末に日本は独立を回復しましたが、米軍の航空管制下で起きたこの事故の真相は、現在も不明です。

事故機と運航体制

事故機はマーチン2-0-2型機で、「もく星号」という愛称で親しまれていました。当時、日本は連合国軍の占領下にあり、日本航空は営業面のみを担当し、機体の整備と運航はアメリカのノースウエスト・オリエント航空に委託されていました。そのため、機長や副操縦士などの運航乗務員はアメリカ人でした。

事故の経過

「もく星号」は、1952年 4月9日午前7時42分に羽田空港を離陸しました。アメリカ当局が提出した交信記録によると、離陸前に「羽田から館山上空まで2000フィート、その後6000フィート」という指示が出されていました。しかし、機長は館山から大島までの距離が短いことや、規定高度が4000フィートであることから、この指示に抗議しました。その結果、航空管制官は「羽田出発後10分間は2000フィートを維持し、その後6000フィートに上昇」と訂正しました。

午前7時57分、「もく星号」は「館山通過、高度6000フィートで雲中飛行、8時7分大島上空予定」と報告しましたが、直後の7時59分頃、伊豆大島上空で消息を絶ちました。

事故調査

当時の航空管制や事故調査は、連合国軍の統制下にあり、フライトレコーダーやボイスレコーダーも装備されていなかったため、事故の詳細は不明な点が多く残っています。調査の結果、機体に問題はなく、航空管制の誤りか、操縦者の過失が原因と推定されました。また、乱気流による機体の降下や空中分解の可能性も指摘されました。

航空管制ミス説によれば、航空管制センターが指示した高度が、実際の飛行高度と異なっていた可能性が指摘されています。しかし、交信テープのオリジナルが日本政府に提供されなかったため、真相は明らかになっていません。

政府事故調査会の報告書では、操縦者が航法上の錯誤を起こし、指示された高度2000フィートで飛行したものの、何らかの理由で航空路の中心線を逸脱し、三原山に接触したと結論付けられました。

乗客

当時の旅客機は運賃が高額で、乗客は社会的地位の高い人々が多かったと言われています。漫談家の大辻司郎や八幡製鐵社長の三鬼隆など、多くの著名人が犠牲になりました。

慰霊碑

事故の慰霊碑は、三原山裏砂漠側のバス停近くにあります。また、事故現場には大島町によって設置された説明看板があります。

誤報、捏造報道

事故発生後、多くの未確認情報が錯綜し、「舞阪沖海上に不時着」、「乗客全員無事」といった誤報が報道されました。特に、長崎県の地方紙は「危うく助かった大辻司郎氏」という記事を掲載しましたが、これは大辻のマネージャーが捏造したものでした。

本件を題材とした作品

松本清張の『日本の黒い霧』や『風の息』、佐藤まさあきの『不死鳥は飛ばず』など、この事故を題材とした小説やドラマが制作されています。

この事故は、戦後の混乱期における航空行政の不備や、情報統制の問題点を浮き彫りにしました。事故の真相解明は今もなお求められています。

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