一人内閣

一人内閣とは

一人内閣とは、内閣総理大臣のみで構成される内閣を指す俗称です。日本国憲法下では、内閣は合議体として行政権を担うことが前提とされています。しかし、組閣が遅れるなどの事情により、一時的に内閣総理大臣のみで内閣が構成されることがあります。本稿では、日本における一人内閣の実態、理論的背景、問題点、過去の事例について解説します。

実務上の一人内閣

日本国憲法では、内閣は合議体であることが前提とされているため、新たに内閣総理大臣となった者は速やかに閣僚を任命し、合議体を始動させることが求められます。しかし、首相任命後、組閣までの時間的制限は明確に定められていません。そのため、政治情勢などの事情により組閣が円滑に進まない場合、内閣総理大臣は親任式後、各省大臣を兼任または臨時代理として、形式的に内閣を発足させる措置を執ることがあります。これが「一人内閣」と呼ばれる状態です。

内閣法上、各省大臣については必ず臨時代理を置く必要があります。内閣総理大臣が各省大臣の臨時代理を兼務する措置は、内閣法第10条および国家行政組織法第5条第3項に基づいています。過去の事例では、羽田内閣においてこの措置が取られました。

各省大臣以外のポストについては、事務代理・事務取扱を置くことは必須ではありません。そのため、過去の事例では、首相が各省大臣の兼任・臨時代理を発令しても、他の大臣庁等の長官・総裁の事務取扱を発令しないケースも見られました。

理論上の一人内閣

過去に実例はありませんが、理論上は首相が自らの意思で一人内閣の状態を作り出すことも可能です。例えば、衆議院解散に関して、全閣僚が解散に反対している状況下でも、首相は全閣僚を罷免し、自身のみで内閣を構成することで解散の閣議決定を行うことができます。これは、衆議院解散権が首相の専権事項と呼ばれる所以です。

首相は、自身の方針に反対する大臣を罷免し、賛成派に交代させるか、自らがその任を兼務することで、内閣の意思を統一することができます。たとえ全閣僚が首相の方針に反対しても、首相はすべての大臣を罷免・兼務することで方針決定が可能であり、閣内不一致は最終的に解消されます。つまり、首相は自身の賛同者のみで内閣を構成することができ、内閣の意思はほぼ首相の意思と見なすことができます。

一人内閣の問題点

一人内閣状態では、内閣の構成員が一人であるため、内閣総理大臣が欠けた場合、または事故が発生した場合に、内閣総理大臣臨時代理が存在せず、内閣の職務を遂行することが不可能になるという問題があります。

内閣官房副長官や各府省事務次官などの事務方は存在するため、政府の事務は遂行できますが、政務の遂行は機能不全に陥ります。この状態は、国会で新たな首相が指名され、次の内閣が誕生するまで継続します。

過去の一人内閣の事例

日本において、過去に一人内閣となった事例は以下の通りです。

片山内閣：1947年5月24日 - 6月1日
第2次吉田内閣：1948年10月15日 - 10月19日
石橋内閣：1956年12月23日
羽田内閣：1994年4月28日

これらの事例では、組閣作業の遅延などにより、一時的に首相が各省大臣を兼務する措置が取られました。

日本国外の事例

2024年7月には、ケニアでウィリアム・ルト大統領が大規模な反政府運動を受け、副大統領と首相格の閣僚を除く全閣僚を解任し、首相格の閣僚に全閣僚ポストを兼務させる一人内閣状態が発生しました。この状態は約1週間で解消されました。

まとめ

一人内閣は、組閣の遅延や政治的決断など、限定的な状況下で発生する特殊な内閣の形態です。理論的には首相の専権事項とも言えますが、内閣の機能不全を招く可能性があるため、速やかな組閣が望まれます。

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