一宮町 (岡山県)

岡山県御津郡に位置し、かつて存在した一宮町（いちのみやちょう）は、昭和46年（1971年）1月8日に岡山市へ編入合併され、その歴史に幕を下ろした自治体です。現在は岡山市北区に位置する一宮地域として、その名称が受け継がれています。

この地域は古くから歴史に登場します。奈良時代以前、この地は備前国津高郡に属し、馬屋郷と呼ばれていました。この「馬屋」という名は、古代の主要交通路であった山陽道に設けられた津高駅に置かれた駅家（うまや）に由来すると考えられています。駅家は人馬の継ぎ立てや宿泊施設としての役割を担い、地域の発展に大きく貢献しました。

近世に入り、江戸時代には備前藩池田氏の所領となりました。この時代、藩によって大規模な馬市が定期的に開かれるようになります。全国各地から馬が集まり、商人たちで賑わったこの馬市は、地域の経済活動の中心となり、その盛況ぶりから現在も「市場」という地名が残されています。これは、この地の商業史を物語る貴重な痕跡と言えるでしょう。

明治時代に入り、近代的な地方自治制度が整備される中で、明治22年（1889年）4月1日には町村制が施行されました。これにより、旧来の村々が合併し、一宮村、馬屋下村、平津村の三つの村が津高郡内に誕生します。一宮村は一宮、尾上、西辛川、辛川市場が、馬屋下村は大窪、福谷、長野、横尾、芳賀、松尾が、平津村は首部、楢津、山崎、今岡、佐山がそれぞれ合併して成立しました。明治33年（1900年）4月1日には、津高郡と隣接する御野郡が合併して御津郡が発足し、これら三村は新しい御津郡に属することになります。交通網の整備も進み、明治37年（1904年）11月15日には中国鉄道（現在のJR西日本）の吉備線が開業し、地域内に一ノ宮駅（現在の備前一宮駅）が設置され、地域の交通利便性が向上しました。

昭和時代に入ると、周辺自治体との合併の機運が高まります。昭和29年（1954年）頃から、一宮村、馬屋下村、平津村の間で合併に向けた協議が進められ、翌昭和30年（1955年）1月1日に、これら三村が合併して新たな自治体、一宮町が発足しました。合併後も、旧村域は地域の区分として、特に小学校区などで引き継がれました。

一宮町は、その後も地域社会の発展に努めましたが、昭和46年（1971年）1月8日、広域合併の流れの中で、隣接する岡山市に編入されることとなり、町としての歴史を終えました。編入に際して、町制施行時に存在した15の大字（現在の町名・地名にあたるもの）のうち、山崎を除く14大字はそのまま岡山市の大字として継承されました。山崎については、他の地域と区別するため、「一宮山崎」のように旧町名である「一宮」を冠称する形で岡山市の大字となりました。

岡山市への編入後も、地域の整備は進みました。平成2年（1990年）4月1日には、大規模な住宅団地である芳賀佐山団地の開発など、地域社会の変化に対応するため、上芳賀地区と佐山地区の一部が、従来の馬屋下・平津地区から分割され、桃丘地区という新しい小学校区が設けられました。さらに、平成21年（2009年）4月1日には、岡山市が全国で18番目の政令指定都市に移行したことにより、旧一宮町の区域は岡山市の行政区の一つである北区に属することとなり、現在に至っています。

この地域はまた、歴史上の人物とも関わりがあります。例えば、明治から昭和初期にかけて活躍した弁護士であり政治家の黒住成章は、この地の出身です。彼は立憲政友会に所属し、衆議院議員を務めたほか、函館弁護士会長や司法省参与官なども歴任しました。

このように、旧一宮町は古代の駅家、近世の馬市に始まり、近代の町村合併を経て町となり、最終的には岡山市の一部となった、歴史と変遷に富んだ地域です。その名称は、現在の岡山市北区一宮地域として、今もなお人々に親しまれています。

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