一輝まんだら

手塚治虫『一輝まんだら』：未完成の傑作が描く激動の時代

手塚治虫の漫画作品『一輝まんだら』は、1974年から1975年にかけて『漫画サンデー』に連載された歴史劇です。舞台は1900年前後の中国と日本。清王朝末期の混乱、明治日本の近代化、そして激動の時代を彩る数々の実在の人物や出来事が、フィクションと巧みに織り交ぜられ、息を呑むような展開を見せてくれます。

物語の舞台：動乱の時代

物語は、ヨーロッパ列強による侵略が進む清王朝末期の中国から始まります。義和団の乱、孫文による革命運動、そして後の中国を率いる蒋介石や毛沢東といった歴史的キーパーソンが登場。同時に、明治時代の日本も重要な舞台となり、両国の複雑な関係や、当時における清国人への差別的な扱いなどもリアルに描かれています。

魅力的な登場人物たち

物語の中心となるのは、姫三娘という中国山東省の貧農の娘です。税滞納の罰を命じた役人を殺害し、逃亡生活を送る中で義和団に加わります。義和団での経験は、彼女に深い心の傷を与え、複雑な人物像を作り上げていきます。

三娘の恋人である李来中は義和団の幹部として活躍しますが、八カ国連合軍との戦闘で重傷を負い、三娘の看病の下、命を落とします。

上海の富裕層出身の王太白は、革命青年グループの急進派として活躍。三娘と行動を共にする中で、日本へ亡命し、黒龍会や孫文と関わることになります。しかし、孫文の民主主義路線に反発し、道を分かつことになります。

王太白と日本で出会う鉢須賀鳩子は、公爵家の令嬢。身分違いの恋に悩み、運命に翻弄されていきます。

一方、北一輝をモデルにした北輝次郎は、過激な社会主義思想の持ち主。自身の著作が出版されない苦悩を抱えながら、三娘と幾度となく出会い、複雑な感情を抱きます。

未完成ながらも大きな魅力

『一輝まんだら』は、残念ながら第一部完で連載終了してしまいました。手塚治虫自身、あとがきで第二部では北一輝の上海での活動や二・二六事件を描く予定だったと語っており、未完成に終わったことが惜しまれます。しかし、その断片的な物語ですら、読者の想像力をかき立てるほどの奥深さと魅力にあふれています。

歴史を背景にしたドラマ、複雑な人間関係、そして社会主義的な思想が色濃く反映された作品世界は、現代においても多くの読者を惹きつけます。未完成という点も、この作品の魅力を高めていると言えるでしょう。


単行本情報

『一輝まんだら』は、様々な出版社から単行本が刊行されています。大都社、講談社、角川書店などから、ハードコミックス、手塚治虫漫画全集、文庫版など、様々な形態で読むことができます。それぞれの版で、収録されている内容や構成が異なる場合がありますので、お好みの版をお選びください。


手塚治虫の深遠な作品世界

『一輝まんだら』は、手塚治虫の漫画家としての幅広さを改めて示す作品と言えるでしょう。歴史への深い造詣、人間心理の繊細な描写、そして社会問題への鋭い洞察。これらの要素が一つに溶け合い、読者に忘れがたい感動と余韻を残します。未完成ながらも、その魅力は色褪せることなく、多くの読者を魅了し続けている、手塚治虫の代表作の一つです。

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