丁善徳

丁善徳

丁善徳（てい ぜんとく、Ding Shan-de, 1911年11月12日 - 1995年12月8日）は、20世紀の中国を代表する作曲家であり、優れたピアニストでもありました。彼の生涯は、激動の時代における中国近代音楽の発展と深く関わっています。

生涯と教育

1911年、丁善徳は現在の江蘇省崑山に生まれました。若くして音楽の才能を示し、1928年に中国の音楽教育の中心であった上海音楽院に入学しました。ここで彼は、ピアノをロシア出身の著名なピアニスト、ボリス・ザハロフに、作曲を中国近代音楽の先駆者である黄自に師事し、専門的な音楽教育の基礎を築きました。1935年にピアノ科を卒業後、彼は教育の道に進み、河北省立女子師範学院音楽科で教鞭をとりました。

日中戦争が勃発した1937年には、母校である上海音楽院に戻り、教職に就きました。この時期は厳しい状況下でしたが、彼は音楽界の仲間たち、陳又新や労景賢らと共に、上海音楽館の設立に尽力しました。これは戦時下における音楽活動の拠点として重要な役割を果たしました。

戦後の1947年、丁善徳はさらなる研鑽のため、フランスのパリ国立高等音楽・舞踊学校へ留学しました。ここでは、多くの著名な音楽家を育てた伝説的な教育者、ナディア・ブーランジェのもとで学び、その音楽的視野と作曲技法を大きく広げました。

帰国後の活動と貢献

1949年に帰国した丁善徳は、上海音楽学院に教授として迎え入れられました。以降、彼はこの母校を拠点として、教育者および音楽家として精力的に活動を展開しました。作曲科の主任や副院長といった要職を歴任し、多くの後進の指導にあたり、中国の音楽教育の発展に多大な貢献をしました。彼の指導を受けた学生の中から、数多くの優れた音楽家が輩出されています。

また、彼は教育活動と並行して、作曲家としての創作活動も活発に行いました。中国の歴史や民俗音楽に根ざした素材を取り入れつつ、西洋の音楽語法を融合させた作品を生み出しました。ピアニストとしても優れた演奏家であり、自身の作品や他の作曲家の作品を演奏しました。

主な作品

丁善徳の作品は、管弦楽曲からピアノ独奏曲まで多岐にわたります。彼の代表的な作品には以下のようなものがあります。

管弦楽曲
交響曲「長征」：中国の革命史における重要な出来事を題材とした大作です。
交響組曲「新中国」：新時代の到来を祝うような、希望に満ちた作品です。
ピアノ独奏曲
児童組曲：子供たちのための、教育的な要素も含む親しみやすい作品集です。
第一新疆舞曲、第二新疆舞曲：中国西部の新疆ウイグル自治区の民俗音楽にインスパイアされた作品で、異国情緒あふれる旋律やリズムが特徴です。

家族

彼の家族には音楽家が多く、特に外孫である余隆は、現代中国を代表する国際的な指揮者として活躍しています。

丁善徳は1995年に84歳でその生涯を閉じましたが、彼の教育者としての功績、そして作曲家、ピアニストとしての作品は、中国近代音楽史において重要な足跡として今も評価されています。彼の音楽は、中国の伝統と西洋の技術が融合したユニークなスタイルを持ち、多くの人々に感銘を与え続けています。

• ---

参考文献：CiNii(丁善徳) 等
脚注は省略

もう一度検索