丁子屋百貨店

丁子屋百貨店：朝鮮・満州に花開いた百貨店の興亡

丁子屋百貨店（ちょうじやひゃっかてん）は、20世紀前半の日本統治下の朝鮮および満州に店舗を構え、隆盛を誇った日本人経営の百貨店です。特に京城（現在のソウル）では、平田百貨店、三中井百貨店、三越百貨店、和信百貨店と並び、「五大百貨店」としてその名を知られていました。

その沿革

丁子屋のルーツは、1867年に三重県津市で洋品店を始めた二代目小林源六に遡ります。日露戦争を機に、小林源六は新たな事業機会を求め、釜山の大商人であった大池忠助から建物を借り、1904年4月に釜山府弁天町に洋服店「丁子屋」を開業しました。同年10月には、漢城（後の京城）にも店舗を拡大しています。

1921年、丁子屋は株式会社丁子屋百貨店として法人化。これは、三越百貨店に5年遅れての百貨店業態への進出でした。京城府明治町に本店を構え、1929年には本店を増築し、延べ2200坪という広大な店舗面積を誇る百貨店へと成長しました。

1933年12月17日の京城日報には、「ボーナス景気の百貨店」と題する記事が掲載され、三越、丁子屋、三中井、平田の四大百貨店の12月1日から15日までの売上が前年比で5％から15％増加したことが報じられました。当時、丁子屋の顧客構成は、朝鮮人が6割、日本人が4割であったと伝えられています。

1935年には、満州丁子屋も開業し、その勢いは留まることを知りませんでした。

主な店舗

丁子屋百貨店は、京城の本店を中心に、釜山、平壌、元山、大連、新京（現在の長春）など、主要都市に支店を展開していました。

戦後の終焉とその後

1945年の太平洋戦争終戦により、丁子屋百貨店は海外資産をすべて失い、その歴史に幕を閉じました。京城にあった本店は、戦後すぐに韓国人経営の中央百貨店となりましたが、1948年には韓国政府に接収され、米軍のPX（基地内売店）として使用されることになりました。

1954年には貿易協会がこの百貨店を買収し、店名を美都波（ミドパ/Midopa）と改称。1969年には大韓農産の傘下に入り、美都波百貨店として経営が引き継がれました。

2002年、美都波百貨店は近隣に位置するロッテ百貨店（運営はロッテショッピング）に買収され、2003年にはロッテ美都波に店名を変更。さらに2013年にはロッテショッピングに吸収合併されました。現在、この場所にはロッテヤングプラザ明洞店が建っています。

一方、三重県津市では、創業者の小林源六の一族が、紳士服店「丁子屋」としてその名を今に伝えています。百貨店としての丁子屋は消滅しましたが、そのルーツは日本の地で静かに息づいているのです。



出典：

林廣茂 -「京城の五大百貨店の隆盛と、それを支えた大衆消費社会の検証―主として昭和初期から同15年前後まで―



外部リンク：

慶応３年創業 丁子屋

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