三中井百貨店

三中井百貨店：朝鮮半島を席巻した幻の百貨店

三中井百貨店（みなかいひゃっかてん）は、20世紀前半の朝鮮と満州、そして中国大陸に店舗を展開していた百貨店です。特に京城（現在のソウル）では、丁子屋、平田、三越、和信と並び、五大百貨店としてその名を知られていました。

沿革

その起源は、近江商人である中江勝次郎（1872年 - 1944年）が、滋賀県神崎郡南五個荘村金堂（現在の東近江市五個荘金堂町）で創業した三中井呉服店に遡ります。

1905年、勝次郎は大韓帝国に渡り、大邱の西門市場付近に、兄弟と共に三中井商店を設立。日韓併合の翌年である1911年には、京城に本拠を移転しました。勝次郎の卓越した経営手腕により、三中井商店は次々と店舗を拡大。朝鮮、満州、中国大陸に18店舗を展開する百貨店チェーンを一代で築き上げました。

当時の店舗はテナント方式を採用せず、全フロアを自社で経営していたのが特徴です。1921年には株式会社に改組し、資本金も100万円に増資しました。1923年には新築の丸の内ビルヂングに入居し、1924年、勝次郎はアメリカ合衆国を視察。シアーズ・ローバック（現・シアーズ）などの大手百貨店に関心を抱き、その販売手法を参考に経営を改革。1933年には、現在の三中井百貨店へと名称を変更しました。

1936年には、京城本店に当時としては珍しいエレベーターを導入。これは三菱電機製で、朝鮮半島ではウェスティン朝鮮ホテルに次ぐ2番目の設置でした。1945年の終戦時には、朝鮮に12店、満州に3店、中国に3店を構え、国内には金堂を総本部として京都本社、大阪と東京の仕入部を持つ、朝鮮と満州、中国大陸で最大の百貨店チェーンとなっていました。最盛期には、社員数4000人、年間売上高1億円を誇り、朝鮮域内での売上は、当時日本最大であった三越百貨店を凌ぐほどでした。

主な店舗

本店：地上6階地下1階、売場面積2504坪。京城府本町1丁目45番地（現在のソウル明洞ミリオレ付近）
釜山店：釜山府大橋通2-39
大邱店：1934年9月開店。5階建。大邱府元町2丁目
平壌店：平壌府本町
大田店：大田府本町
光州店：光州府光山町
新京店：1933年12月仮営業。満州国新京日本橋通り

戦後

1945年の日本の敗戦により、海外資産を全て失い、三中井百貨店は消滅しました。旧従業員らによる丸物（現在の近鉄百貨店）への経営参加や、大丸下関店との提携構想もありましたが、実現には至りませんでした。勝次郎の死後、家族は五個荘に戻り、1949年に煎餅店を開業。その後、洋菓子店「三中井洋菓子店」（後に「三中井」に改称）として再出発し、現在も夢京橋キャッスルロードで営業を続けています。店舗では、三中井百貨店のシンボルマークである井桁菱が受け継がれています。

勝次郎の生家は現在も五個荘金堂町に現存し、近江商人屋敷中江準五郎邸として一般公開されています。中江勝次郎邸は、一時は他者の手に渡りましたが、後に三中井の経営者夫婦が買い戻し、所有しています。一方、中江富十郎邸は、かつて外村宗兵衛が所有していた屋敷を増改築したものでしたが、戦後は敷地内の離れや蔵が解体され、スーパーマーケットが営業していました。スーパーマーケットの廃業後は長らく空き家となっていましたが、2008年に「金堂まちなみ保存交流館」として再生されました。

関連情報

書籍：『幻の三中井百貨店--朝鮮を席巻した近江商人・百貨店王の興亡』林廣茂著 晩聲社刊
関連項目：
丸物 - 経営参画の構想があった。近鉄百貨店現法人の前身。
近鉄百貨店京都店
近鉄百貨店草津店 - 滋賀県へ出店。
下関大丸（現・大丸下関店） - 経営参画の構想があった。

外部リンク

夢京橋キャッスルロード 洋菓子 三中井

もう一度検索