七色の毒

短編推理小説集『七色の毒』の概要

中山七里の『七色の毒』は、著者が独創的な短編推理小説を集めた作品であり、2012年から2013年にかけて『小説 野性時代』にて発表された6篇に書き下ろしの1篇を加えたものです。この短編集は、警視庁捜査一課に所属する刑事、犬養隼人が色にちなんだ7つの事件を解決する様子を描いています。これまでの作品とは一線を画し、思いもよらない展開や緻密なトリックが盛り込まれた内容が特徴です。著者はこの作品を自身の最高傑作と自負しており、ミステリー評論家の佳多山大地もその独自性と技巧を高く評価しています。

構成とテーマ

本作は全7話から成り立っています。各話はそれぞれ独立した事件であり、犬養隼人というキャラクターを軸に物語が展開します。料理の素材を選別するように、著者は色にまつわる事件を巧みに組み立て、悪意や人間の心理を深く掘り下げていきます。作品は、ミステリー特有のどんでん返しや、読者を驚かせるプロットで観客を引き込みます。

収録作品の紹介

1. 赤い水
名濃バスの事故を巡る真相を追う物語。事故の運転手が自らを責める姿勢に疑念を抱く刑事の視点から展開される。

2. 黒いハト
生徒の自殺事件を受けて、中学生たちが抱えるいじめ問題とその真相に迫る過程を描いた話。

3. 白い原稿
文学賞受賞の裏側を問い、作家の複雑な人間関係とその結末を扱っている。

4. 青い魚
幸せを手に入れた男が、突如訪れた不幸に取り込まれていく様子を描く物語。

5. 緑園の主
ホームレスの火弾事件と中学生の毒殺事件を織り交ぜながら進行する捜査劇。

6. 黄色いリボン
性同一性障害をテーマにした心温まる物語で、自己認識の葛藤を描いている。

7. 紫の献花
名濃バスの事故と、その運行係の不可解な殺人事件が、事故被害者と絡み合うサスペンス。これにより主人公たちの運命が変わっていく。

読後感と評価

『七色の毒』は、著者がこれまでに培ってきたセンスを生かしつつも新たな挑戦をしており、その結果、深いテーマとも相まって、多面的な解釈を楽しむことができます。また、作品には緻密な心理描写や、人間関係のデリケートさが透けて見えるため、読者にとっても親しみやすい内容となっています。短編ながらも充実感があり、毎回新しい驚きをもたらしてくれる点も魅力的です。

この短編集は、推理小説ファンだけでなく、多くの読者に向けて新たな視点を提供し、考えさせられる内容となっています。色の持つ象徴性や、人間の奥底に秘められた思惑に対する新たな理解を深めるための一冊です。

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