万治の大火

万治の大火（まんじのたいか）

万治の大火は、江戸時代初期の万治3年（1660年）に、尾張国名古屋の城下町で発生した壊滅的な火災です。

正月に行われる火祭りである左義長が執り行われた当日の夕刻に出火したため、「左義長火事」の別名でも知られています。また、当時の元号である万治と、火災が発生した名古屋を繋げ、「万治名古屋の大火」と称されることもあります。

概要

火災は万治3年1月14日、名古屋城の外堀南側に位置する片端筋の本町界隈から発生したとされています。出火元自体は小規模であったと見られますが、折からの強風にあおられ、火勢は瞬く間に南へと拡大しました。

碁盤の目状に整備されていた名古屋城下町、通称「碁盤割」は、その南側に広がる地域を中心に広範囲にわたり延焼し、市街地の大部分が灰燼に帰しました。特に碁盤割の東側一帯は壊滅的な被害を受け、類焼を免れた家屋は極めて少なかったと伝えられています。

この大火によって焼失した家屋は、町屋が2,247軒、武家屋敷が120軒に達し、合計2,367軒が失われました。茶屋町に暖簾を掲げていた有力な商家「いとう屋」（現在の百貨店、松坂屋の前身にあたる）も、この大火によって店舗を失ったことが記録に残されています。

影響と対策

火災原因や延焼経路に関するその後の詳細な調査により、本町および七間町に存在した3棟の3階建て建造物が延焼拡大に大きく影響したことが判明しました。これを踏まえ、大規模火災の再発を防ぐため、名古屋城下では新たな建築規制が設けられ、3階建て以上の建物建築が禁止されることになりました。

また、火災発生時の初動対応や消火活動に関する詳細な規則を定めた法令「火事之時御定」が、翌年の寛文元年（1661年）9月に発布され、防火体制の強化が図られました。

さらなる延焼を防ぐための抜本的な都市計画変更として、碁盤割の南端にあたる堀切筋のうち、久屋町筋から長者町筋にかけての一帯が大幅に拡幅されました。元の幅員が約3間（約5.4メートル）であったものが、約15間（約27メートル）にまで広げられ、大規模な防火帯としての役割を果たすとともに、この区間は「広小路」と称されるようになりました。広小路の拡幅は、その後の名古屋の都市構造に大きな影響を与えることとなります。

加えて、寛文年間には尾張藩の主導により、町人たちで組織される自主的な消防隊である「火消組合」が6組創設されました。この組織はその後も拡充が図られ、元禄13年（1700年）には8組、総勢1,450名体制となり、城下町の初期消防体制の中核を担うこととなりました。

万治の大火は、名古屋城下にとって大きな痛手となった一方で、その後の防火・防災対策、都市計画、そして消防体制の基礎が整備される契機となった重要な出来事でした。

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