三ない運動

三ない運動の背景と展開

三ない運動（さんないうんどう）は、日本国内において1970年代後半から1990年代にかけて展開された教育運動の一つで、正式には「高校生に対するオートバイと自動車の三ない運動」と呼ばれるものです。この運動は、高校生がオートバイや自動車の運転免許を取得することや、車両の購入、運転そのものを禁止することを目指し、「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」というスローガンの下に実施されました。

発端と1980年代の動き

1980年代の初め、オートバイの利用増加に伴い交通事故が急増し、暴走族による騒音問題や危険運転が取り沙汰されるようになりました。この影響を受けて、多くの学校やPTAが、高校生の安全を優先する観点から、オートバイの利用に反対する立場をとりました。1982年には、全国高等学校PTA連合会（高P連）が仙台大会で「三ない運動」の推進を決議しました。これにより、オートバイの運転に関する厳しい姿勢が全国的に広がりました。

政府と文部省の反応

日本政府はこの運動に対して批判的な立場をとり、1971年には高等学校における運転者教育の導入を検討する報告書が発表されました。その後、文部省も学校教育における交通安全教育の必要性を認識し、高校生のオートバイ利用に関する指導書の整備を進めることになります。このような背景から、1989年には高等学校で運転免許取得に関する科目を導入する構想が浮上し、運動の方向が徐々に変化し始めます。

1990年代の変化

1990年代に入ると、「三ない運動」が持つ事故予防効果について疑問の声が上がり、高校での安全運転教育を導入する動きが広まりました。神奈川県では、1990年に「四プラス一ない運動」を廃止し新たに「かながわ新運動」として方針転換し、高校生を「車社会の一員」と位置付け、彼らの免許取得の奨励や教育の充実を掲げるようになりました。この頃より、各地域において「三ない運動」の見直しが行われるようになります。

社会的な反発と運動の終焉

1994年に福島で起きた高校生の事故を受けて、運動への批判が高まったことが一因となり、95年に高P連会長が「三ない運動」の廃止を表明します。また、バイクメーカーである本田技研工業の創業者、本田宗一郎も運動に否定的な立場を取っており、自ら教育の名の下にバイクから高校生を取り上げるのではなく、必要な知識を教えることが重要だと主張しました。徐々に、1970年代以来の運動は見直され、地域の実情に合わせた教育方法が模索されるようになりました。

2000年代以降の状況

2000年代以降、三ない運動が形式的に終了し、2012年にはマナーアップ運動への移行が発表されました。その後、地域によっては新たな交通安全教育が導入され、バイクの運転が容認されるケースも増えていきました。群馬県や埼玉県などの中には、「三ない運動」を廃止し、新たな指導方針を策定するに至ったところもあります。

地域ごとの事例とさまざまな反応

一方で、さまざまな地域での反発や賛同の声が見られました。群馬県では、バイク事故の減少を訴える教育委員会と安全教育の必要性を語る警察との間で対立が見られました。また、広島県では、事故件数が著しく減少したと報告される一方で、「三ない運動」に反対する声を上げる教育関係者も存在しました。

同様に、和歌山県では運動を定めていたが、時代の変化に伴い、最近になってその規則が廃止されるに至りました。しかし、山梨県では三ない運動が発生せず、高校生のバイク通学が許可されているなど、地域差が生じています。

結論

このように、三ない運動は、高校生の交通安全に関する意識を高める一方で、時代とともに見直されていく流れが見られました。交通安全や教育の意義を問いながら、今後の社会においても持続的に議論されていくべき重要なテーマとなっています。

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