三侠五義

三侠五義（さんきょうごぎ）

『三侠五義』は、中国清代に石玉崑によって著された通俗小説であり、北宋時代に実在した名裁判官・包拯（包公）と、彼を助ける侠客たちの活躍を描いた物語です。公案小説としての推理要素と、武侠小説としての活劇要素が融合した作品として知られています。

成立の背景

本作の成立には、『龍図公案』や『包公案』といった、それ以前の公案小説の影響が見られます。また、兪樾（ゆえつ）によって内容が改変され、『七侠五義』として発表された版も存在します。さらに、続編として『小五義』、『続小五義』なども制作されています。

『七侠五義』への改題は、登場する侠客の数に由来します。「三侠」とは、南侠（展昭）、北侠（欧陽春）、双侠（丁兆蘭、丁兆蕙）を指しますが、丁兄弟の存在により実際には四人であるため、人数が合いません。そこで、智化、艾虎、沈仲元の三人を加え、「七侠」としたという経緯があります。ただし、「三」や「五」といった数字は、中国においては慣用的に用いられることが多く、必ずしも深い意味を持つものではありません。

概要

物語は大きく分けて二つの部分から構成されています。

前半は、包拯が主人公となり、彼の裁判を侠客たちが手助けするエピソードが中心です。この部分では、幽霊が無念を訴え出たり、人の魂が入れ替わるといった怪奇的な要素が含まれています。複雑な事件を包拯が卓越した推理で解決していく様は、ミステリー小説としても楽しめます（ただし、拷問による自白が重視される傾向があり、現代的なミステリーとは異なる点に注意が必要です）。

中盤以降は、侠客や五義と呼ばれる義賊たちがメインとなり、悪人を懲らしめるエピソードが展開されます。しかし、物語は侠客たちが一堂に会し、悪逆非道な襄陽王を倒すための相談をするところで、唐突に幕を閉じます。その後のエピソードは、続編である『小五義』に収録されています。

登場人物

主人公

包拯（ほうじょう）: 北宋時代に実在した政治家で、字は文正。包公と尊称されることが多いです。色黒で寡黙な少年時代を過ごしましたが、四書五経を暗誦できるほどの天才でした。仁宗皇帝を助けるために天から遣わされた「星主」の一人とされ、公正無私な裁判によって名判官として名を馳せ、多くの侠客から慕われています。

三侠（七侠）

物語の中心となる侠客たち。義侠心に厚く、弱きを助け強きを挫く活躍を見せます。「三侠」あるいは「七侠」とまとめて呼ばれますが、彼らが義兄弟の関係にあるわけではありません。

展昭（てんしょう）: 南侠と称される剣術、隠し矢、軽業の達人。その身軽さから皇帝より「御猫」の異名を授けられています。科挙を受験するために上京する包拯と出会い、その後、包拯の危機を幾度となく救います。御前四品帯刀護衛に任命されたことから、五鼠の白玉堂から妬まれ、戦いを挑まれることになります。字は「熊飛」。
欧陽春（おうようしゅん）: 北侠と称される刀の名手。碧眼と紫髭が特徴で、紫髯伯とも呼ばれます。物語の中盤で、小侠こと艾虎の義父となります。放浪癖があり、遺跡観光を好みます。
丁兆蘭（ていちょうらん）: 双子の弟・丁兆蕙と共に双侠と呼ばれる侠客。茉花村に住んでおり、白玉堂と展昭の対立の際には展昭に協力しました。基本的に茉花村での生活を送るため、物語への登場は少なめです。
丁兆蕙（ていちょうけい）: 兄と共に双侠と呼ばれる侠客。おとなしい兄とは対照的に、行動的な性格です。義侠心に篤く、借金に苦しむ人々を救うために、金貸しの家から金品を盗むこともあります。
艾虎（がいこ）: 小侠と呼ばれる少年。元は覇王荘の従僕でしたが、智化に弟子入りし、後に欧陽春と義理の親子関係を結びます。欧陽春、智化と共に不正を働く馬強を陥れる計画に参加し、開封府で証言を行います。酒好きで、酒が原因で失敗することも少なくありません。
智化（ちか）: 黒妖狐と呼ばれる侠客。艾虎の師匠であり、知略に長けた人物です。覇王荘の食客でしたが、不正を働く馬強を陥れるなど、義賊としての活動を行います。
沈仲元（ちんちゅうげん）: 小諸葛と呼ばれる侠客。元は不正役人・馬強の食客でしたが、後に悪役である襄陽王に仕えます。敵側の組織に所属しながらも、内部から侠客たちに情報を提供し、彼らを助けます。しかし、白玉堂は沈仲元の助言を聞き入れず、悲劇的な最期を遂げることになります。

五義（五鼠）

陥空島に住む五人の侠客であり、義兄弟の契りを結んでいます。全員のあだ名に「鼠」の字が含まれることから、「五鼠」とも呼ばれます。

盧方（ろほう）: 五鼠の最年長で、鑽天鼠（さんてんそ）の異名を持ちます。棹登りが得意な富豪であり、彼を中心に五鼠が集まりました。無鉄砲な行動をする白玉堂に手を焼いています。
韓彰（かんしょう）: 五兄弟の次兄で、撤地鼠（てっちゅうそ）の異名を持ちます。元軍人で、溝掘りや火薬の扱いに長けています。毒矢の名手でもあり、包拯の部下である王朝に重傷を負わせたこともあります。蒋平と仲たがいし、一時的に五鼠のメンバーから離れていましたが、後に復帰し、花蝴蝶の捕縛に貢献しました。
徐慶（じょけい）: 五兄弟の三兄で、穿山鼠（せんざんそ）の異名を持ちます。元鍛冶屋で、山に多くの洞穴を穿ったことからこの名で呼ばれます。短気で粗暴な性格であり、交渉事や隠密作戦には不向きです。白玉堂が殺された際には、誰よりも悲しみ、敵討ちのために奔走しました。
蔣平（しょうへい）: 五兄弟の四兄で、字は沢長。翻江鼠（ほんこうそ）の異名を持ち、水泳を得意とします。知略にも長けており、作戦立案を担当することが多いですが、痩せていて顔色が悪く、病人のように見えるため、初対面の人からは軽く見られがちです。水中戦に強く、立案能力も高いため、他の兄弟に比べて活躍の場面が多いです。
* 白玉堂（はくぎょくどう）: 五兄弟の末弟で、錦毛鼠（きんもうそ）の異名を持ちます。兄たちのように飛び抜けた技能を持つわけではありませんが、文武両道で美男子です。傲慢で自尊心が高く、短気な性格で、しばしばトラブルを引き起こします。展昭が「御猫」という自分たちより強そうな異名を名乗っていることに不満を持ち、展昭に戦いを挑みます。その後、北侠・欧陽春に出頭を命じる際に傲慢な態度に出たため、打ち負かされてしまいます。沈仲元の忠告を聞き入れなかったため、悲惨な最期を遂げることになります。

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