三式探信儀

三式探信儀：日本海軍の革新的水中探信儀

開発の背景

太平洋戦争初期、日本海軍はフランス製の探信儀を参考に開発した九三式探信儀を運用していました。しかし、九三式探信儀にはいくつかの欠点がありました。送受波器に整流覆がなく雑音が大きかったこと、指向性が鋭すぎて探知した目標をすぐに失ってしまうこと、水晶式送受波器が衝撃に弱く、爆雷攻撃前に艦内に収納しなければならなかったことなどです。これらの欠点は、敵艦の直上での探知を困難にしていました。

昭和16年、ドイツから方向と距離を同時に測定できる水中探信儀の情報が入りました。艦政本部はドイツ駐在の海軍武官に現物と図面の入手指示を出しましたが、入手には時間を要するため、日本電気と海軍の音響研究部がドイツの新型探信儀の情報を元に、ブラウン管に反射波を表示できる新型探信儀の開発に着手しました。1943年、ドイツの仮装巡洋艦来日の際に実物を調査する機会を得て詳細設計が完了し、試作品は高い有効性が認められ、同年年末に三式探信儀として制式採用されました。

装置概要

三式探信儀は、ドイツ海軍のS装置を参考に設計された聴音探信装置です。2つの磁歪式振動子からなる送受波器、2組の映像器、特殊受振器を使用し、目標艦船のプロペラ音から発生する超音波の到来方向をブラウン管上に表示します。任意のタイミングで探信を行い、目標までの距離を測定します。1943年以降、急速に性能が向上し、1944年には改良型の三式探信儀二型が海防艦「千振」に搭載され、良好な試験成績を残しました。その後、駆逐艦、海防艦、商船などに広く搭載されるようになりました。用途によって、一型（高速艦艇・大型艦用）、二型（哨戒艦艇用）、三型（商船用）、四型（潜水艦用）、五型・六型（駆潜艇・哨戒特務艇用）など、いくつかの派生型が存在しました。

映像器

映像器は、目標からの反響音を2つの磁歪式振動子で受信し、それぞれの信号を和動と差動の2種類に分けてブラウン管に送ります。表示された光点の角度から目標の方向を直接読み取ります。送受波器が目標に向くと光点は垂直に立ち上がり、傾くと光点も傾くため、光点が垂直になるように送受波器を回転させることで目標の方向を正確に判定できます。光点の位置から距離も測定できます。この方式は、従来の最大感度法の探信儀に比べて捜索範囲が広く、方向精度も高いため、探知後の目標追尾が容易でした。700～800mの範囲では、推進器音を聴取することもできたため、視覚と聴覚の両方を用いて目標を探知できました。水上艦艇用には艦橋用と水測室用の2つの映像器があり、潜水艦用（四型）には探信・聴音兼用の探信用映像器と聴音専用の聴音用映像器がありました。探信用映像器は、光点を半透明の回転鏡に投影する方式を採用し、使用者の負担を軽減していました。

発振器・送受継電器

発振器は送波器に高周波電力を供給する装置で、当初は真空管式が使用されました。しかし、真空管の生産が不足していたため、鹵獲した英国製探信儀ASDICの高周波発電機を参考に国産化した高周波発電機が開発されました。この発電機は、発振装置を簡略化できる利点があり、主に三式探信儀三型（商船用）に搭載されました。送受継電器はロータリー式を使用し、トルクモーター、送受切換部、扉開閉器、偏倚電圧短絡部などで構成されていました。

送受波器

送受波器は、発振器から高周波電力を供給され、水中へ超音波を発信し、目標からの反響音を受信して再び高周波電力に変換します。九三式探信儀で使用されていた水晶式に代わり、AF合金を使用した磁歪式送受波器を採用しました。2つの角型磁歪式振動子を配列し、送波時は同一の位相で使用し、受振時は個別に使用して位相差によりブラウン管上に傾きのある光点を生成します。船体強度への配慮からキール線上に開口しない設計のため、反対舷の目標探知能力が低下したため、海防艦などは2組搭載していました。三式探信儀の特徴の一つとして、初めて整流覆を装備したことが挙げられます。これは鹵獲したASDICを参考に、送受波器を鉄板で覆うことで、水流による雑音を大幅に低減しました。

探知性能

1944年10月の対潜兵器懇談会資料によると、海防艦「千振」による試験では、約2700mまでの探知が確認され、最短探知距離は100mでした。ただし、水測兵器の性能は、水中の環境、目標、自艦の状態によって大きく変化しました。

参考文献

名和武ほか 編『海軍電気技術史 第6部』技術研究本部、1969年10月
海軍水雷史刊行会 編『海軍水雷史』海軍水雷史刊行会、1979年3月
隈部五夫『海防艦激闘記 - 護衛艦艇の切り札海防艦の発達変遷と全貌 -』潮書房光人社、2016年12月1日
『昭和１９．１０ 対潜兵器 懇談会摘録』防衛研究所戦史研究センター
『Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, E-10,1945-1946(1974)』
『取扱説明書　仮称三式探信儀四型改一』海軍技術研究所音響研究部。国立公文書館
* U.S. Strategic Bombing Survey 編『Translation No. 11, 13 December 1944,new Japanese echo ranging gear. Report No. 3-d(11), USSBS Index Section 6』1944年12月

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