三田村環

三田村 環（みたむら たまき）

日本の伝統文化に深く関わり、特にきもの研究家として知られる三田村 環氏は、1927年（昭和2年）2月4日に東京都中央区京橋で生を受けました。きものに関する造詣の深さのみならず、茶道家、華道家、書道家としても活動し、多岐にわたる分野でその才能を発揮しています。表千家不審庵教授、草月流常任総務、日本教育書道藝術院同人といった肩書は、それぞれの分野における三田村氏の専門性と貢献を示しています。また、自ら主宰する環流和装塾を通じて、多くの人々に和装文化を伝えています。

三田村氏のキャリアは、1948年（昭和23年）にスタイル社へ入社したことから始まりました。ここでは、著名な作家である北原武夫氏や宇野千代氏の秘書を務める傍ら、同社が発行していた『きもの読本』の記者としても活動しました。この初期の経験は、後のきもの研究家としての基礎を築く上で重要な役割を果たしました。『きもの読本』での取材や執筆活動を通じて、三田村氏は和装に関する深い知識と表現力を培っていったと考えられます。

スタイル社での経験を経て、三田村氏は1955年（昭和30年）にはきものに関するフリーライターとして独立します。これにより、特定の組織に縛られることなく、より自由にきものに関する情報発信や執筆活動を行う道を選びました。当時の社会において、きものに関する専門的な知識を持つライターは貴重な存在であり、その活動は多くの読者にとって和装文化を理解する上で役立つものでした。

1958年（昭和33年）から1988年（昭和63年）にかけての約30年間は、西武百貨店の商品開発室で呉服商品の開発に携わりました。百貨店という流通の現場で、顧客のニーズに応える呉服の商品企画や開発に深く関わったことは、きもの研究とは異なる実践的な視点を三田村氏にもたらしたと言えるでしょう。伝統的な呉服の知識に加え、現代の市場や消費者の動向を踏まえた商品開発は、和装を現代社会に適合させ、普及させていく上で重要な役割を果たしました。

特に注目すべき経歴の一つとして、1964年（昭和39年）には当時の皇太子妃美智子殿下（現上皇后陛下）のご下命を受け、訪問着の制作に携わりました。皇室の重要な行事で着用されるきものの制作に関わることは、三田村氏のきものに対する専門知識と技術、そして信頼性が極めて高いレベルにあることを示す出来事です。この経験は、三田村氏のキャリアにおいて、忘れられない重要な一ページとなったことでしょう。

きもの研究家、茶道家、華道家、書道家として、三田村氏はそれぞれの分野で精力的に活動を続けています。表千家の教授として茶道の普及に努め、草月流の常任総務として華道の発展に貢献。また、日本教育書道藝術院の同人として書道の指導や研究にも携わっています。これらの多岐にわたる活動は、単に個別の伝統文化を継承するだけでなく、それらが一体となった日本の美意識や精神性を追求する三田村氏の姿勢を示しています。主宰する環流和装塾では、実践的な和装の知識や技術を教え、若い世代への伝統文化の継承にも力を入れています。

三田村氏は、自身の知識と経験を広く伝えるため、数多くの著作も発表しています。代表的な著書として、1989年（平成元年）に日本文芸社から刊行された『美しい着付と帯結び—TPOに合わせた正しい着付のすべて』があります。この本は、TPOに合わせた着付けや帯結びの方法を分かりやすく解説し、多くの読者が自分で着物を着る手助けとなりました。また、1999年（平成11年）に世界文化社から刊行された『茶席のきものとマナー』は、茶道の場における適切な装いや振る舞いについて詳述しており、茶道愛好家にとって必携の一冊となりました。さらに、1994年（平成6年）には、同じく世界文化社から刊行された『茶席のきもの（保存版　きものに強くなる　家庭画報特選）』の監修を手掛けるなど、専門分野における深い知識を活かした出版活動を通じて、日本の和装文化、特に茶席での装いの重要性を広く伝えることに貢献しています。

現在、三田村氏はフリーランスとして活動しており、これまでの豊富な経験と知識を活かした活動を続けているものと思われます。きもの、茶道、華道、書道という日本の主要な伝統文化全てに精通し、その普及と発展に尽力してきた三田村環氏は、まさに生きた文化遺産と言える存在です。その活動は、これからも多くの人々に日本の美意識や伝統文化の素晴らしさを伝え続けていくことでしょう。

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