訪問着

訪問着（ほうもんぎ）

訪問着は、日本の女性が着用する代表的な和服の一つで、その用途の広さから多くの人々に親しまれています。

和服における位置づけと特徴

訪問着は、女性の和服の中でも準礼装にあたり、黒留袖や色留袖に次ぐ格式を持つとされています。その最大の特徴は、「絵羽（えば）」と呼ばれる独特な模様付けにあります。これは、生地を一度着物の形に仮縫いし、全体のバランスを見ながら柄の構図を描き、再びほどいてから染色や刺繍といった加工を施す技法です。この工程を経ることで、縫い目をまたいであっても、着物の形になったときに柄が途切れることなく、まるで一枚の絵のように流れるような美しい模様が現れます。

特に、柄付けが帯の上にも下にも広がり、その全体が滑らかにつながる点が、訪問着を訪問着たらしめる所以です。この絵羽模様こそが、柄が部分的にのみ付けられ、縫い目で途切れることの多い「付け下げ」との決定的な違いとなります。

かつては、背中の中央と両袖の後ろの計三箇所に家紋を入れることが一般的でしたが、今日では紋を入れずに着用されることが多くなっています。紋がない場合でも、絵羽模様の華やかさによって十分な装いとなります。

着用シーン

訪問着は、その準礼装という格式と絵羽模様の華やかさから、非常に幅広いシーンで活躍します。親族以外の立場で招待された結婚式や披露宴への出席はもちろんのこと、お子さんの入学式や卒業式、お宮参り、七五三、茶事、パーティー、式典など、改まった場から比較的華やかな集まりまで、ほとんどの社交的な場面に適しています。未婚・既婚を問わず、どのような立場の女性でも着用できるため、一枚持っていると非常に重宝する着物と言えるでしょう。

紬訪問着について

通常の訪問着とは異なり、「紬訪問着」と呼ばれる種類の訪問着も存在します。これは、戦後になって着物の需要を喚起するために考案されたもので、その名の通り生地に紬が用いられています。紬は、本来、糸を先に染めてから織り上げる技法で作られ、素朴で丈夫な風合いが特徴であり、古くから普段着として親しまれてきました。そのため、紬訪問着は、どれほど高価なものであっても、生地の特性からフォーマルな場、特に結婚式などの公式な慶事においては着用が推奨されないことが多いです。お洒落着としての性格が強く、同窓会や友人との食事会など、インフォーマルな集まりに向いています。

歴史的背景

訪問着が誕生したのは明治時代のことです。西洋から伝わった「ビジティング・ドレス」（来客時に着用するドレス）に対応する和装として考案されました。その後、大正時代初期に、現在の三越の前身である三越呉服店が「訪問着」と命名し、積極的に売り出したことで広く知られるようになりました。ただし、当時の「訪問着」という言葉は、現在のように絵羽模様の着物だけを指すのではなく、文字通り「他家を訪問する際に失礼にならない、改まった装い」という意味合いで、小紋や紬、お召しなど、様々な種類の格のある着物を広く含んでいたとされています。時代と共に、絵羽模様の着物が「訪問着」として確立されていったのです。

このように、訪問着は日本の近代において生まれ、洋装文化の影響も受けつつ発展してきた、多様なシーンに対応できる現代的な和服と言えるでしょう。

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