三菱リコール隠し

三菱自動車リコール隠し事件：企業の闇と再生への道

2000年、三菱自動車工業（以下、三菱自動車）における大規模なリコール隠し事件が発覚しました。これは、1977年から実に23年間にわたり、10車種以上、約69万台もの車両で重大な欠陥情報を隠蔽し続けていたという、自動車業界の歴史に刻まれる重大事件でした。

事件の発覚と隠蔽の実態

事件の発覚は、三菱自動車社員による匿名の内部告発がきっかけでした。告発内容は極めて具体的で、隠された情報のありかまで示唆するものでした。運輸省（現・国土交通省）の監査によって、三菱自動車がクレーム情報を独自の基準で分類し、重大な欠陥情報（Hマーク）を隠蔽していたことが判明しました。この二重管理システムは、1977年から導入され、コンピューターシステム化された後も継続されていたのです。

さらに、リコール制度開始以来、欠陥車両を自主的に回収・修理する「ヤミ改修」が行われていたことも明らかになりました。これらの隠蔽行為は、ブレーキ欠陥による人身事故を引き起こすなど、深刻な結果を招いていました。

2004年の再発覚と経営危機

2000年の発覚後も、三菱自動車は全ての欠陥情報を開示せず、1997年以前の情報は隠蔽を続けました。その後、2004年にはトラック・バス部門（三菱ふそう）でさらに大規模なリコール隠しが発覚。この時発覚したリコール隠しの規模は74万台にのぼり、2000年をはるかに凌駕するものでした。

相次ぐリコール隠しによって、三菱自動車はユーザーの信頼を失い、販売台数が激減。当時、筆頭株主であったダイムラー・クライスラーは財政支援を打ち切り、三菱自動車は深刻な経営危機に陥りました。しかし、三菱グループ各社の支援を受けて、倒産は免れました。三菱ふそうはダイムラー・クライスラーの連結子会社となりましたが、経営再建は容易ではありませんでした。

死亡事故と刑事裁判

リコール隠しの結果、2002年には2件の死亡事故が発生しました。神奈川県横浜市での母子3人死傷事故と、山口県でのトラック運転手死亡事故です。これらの事故は、三菱自動車のハブやプロペラシャフトの構造上の欠陥、そしてリコール隠蔽が原因であったと断定されました。

これら一連の事件は刑事裁判となり、三菱自動車および関係者は有罪判決を受けました。最高裁判所においても有罪が確定し、企業責任、そして経営陣の責任が問われたのです。

社会への影響と教訓

三菱自動車のリコール隠し事件は、社会に大きな衝撃を与えました。企業倫理の欠如、そしてユーザー軽視の姿勢が批判を浴び、三菱自動車のブランドイメージは深刻な打撃を受けました。社会人野球チームやサッカークラブへの影響も及ぶなど、その影響は多岐に渡りました。

この事件は、企業における情報公開の重要性、そして安全への責任の重さを改めて認識させるものでした。また、内部告発の重要性、企業のコンプライアンスの徹底、そして企業の社会的責任（CSR）の重要性を痛感させる事件となりました。事件後、三菱自動車は品質情報システムの導入など、再発防止策を講じるも、その後も燃費偽装問題など、新たな不祥事を起こしています。この事件は、企業の透明性と責任ある行動の必要性を、長く記憶にとどめておくべき教訓となっています。

『空飛ぶタイヤ』

この事件をモチーフにした池井戸潤の小説『空飛ぶタイヤ』は、広く読まれ、映画化もされました。小説は、事件の裏側にある企業の体質や、被害者側の視点も描かれており、事件の背景や影響をより深く理解する上で参考になります。

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