上尾信也

上尾信也

1961年に生まれた上尾信也は、日本の音楽学者として知られています。特に中世ヨーロッパ音楽史を専門分野としており、その時代の音楽や音楽家の社会的地位、音文化などに関する研究で功績を上げています。

学歴と研究の出発点

上尾氏は、広島大学を卒業後、同大学院で国際学の修士課程を修了しました。さらに学究を深めるため、国際基督教大学大学院の博士課程に進学。1994年には、『楽師論序説 中世後期のヨーロッパにおける職業音楽家の社会的地位』と題された論文で博士（学術）の学位を取得しました。この博士論文は、中世ヨーロッパにおいて音楽を職業とする人々が社会構造の中でどのような位置づけをされていたのかを歴史的に詳細に考察したものであり、彼のその後の研究活動の基盤となりました。

教育者としてのキャリアと転機

研究活動と並行して、上尾氏は教育者としても長く活動しました。キャリアの始まりは桐朋学園芸術短期大学で、専任講師、助教授を経て1989年には教授に就任し、音楽学の専門知識を次世代に伝えてきました。その後、2013年には上野学園大学に移籍し、准教授を経て2015年には教授に昇任。しかし、2021年には著作権法上の法令に違反したことを理由として、上野学園大学から懲戒解雇処分を受け、同大学での教職を離れることとなりました。

この出来事は教育者としてのキャリアにおける大きな転機となりましたが、2024年現在においては、再び桐朋学園大学にて特任教授として教鞭を執っています。

主な著作と翻訳活動

上尾氏は、自身の専門分野である中世ヨーロッパ音楽を中心に、多岐にわたる著作を発表しています。代表的なものとしては以下の作品が挙げられます。

『歴史としての音 ヨーロッパ中近世の音のコスモロジー』（1993年）
『楽師論序説 中世後期のヨーロッパにおける職業音楽家の社会的地位』（1995年） - 博士論文を基にした著作
『音楽のヨーロッパ史』（2000年） - 講談社現代新書として広く読まれた概説書
『吟遊詩人』（2006年） - 中世ヨーロッパ文化と密接に関わる吟遊詩人に焦点を当てた一冊
* 『国歌 : 勝者の音楽史』（2024年） - 最新の著作

また、共著として『詳説総合音楽史年表』に解説者の一人として参加しているほか、海外の重要な音楽史研究書の翻訳も積極的に行っています。ヴァルター・ザルメンの『コンサートの文化史』や『「音楽家」の誕生』、ジェームズ・マッキノン編の『西洋音楽の曙 古代・中世』や『西洋音楽史年表』の監訳など、日本の音楽学界に海外の研究成果を紹介する上でも重要な役割を果たしています。

これらの著作や翻訳を通じて、上尾信也氏は中世ヨーロッパ音楽の研究者として、また音楽史全般にわたる幅広い知識を持つ論客として、日本の音楽学界に貢献しています。過去には教育機関での不祥事もありましたが、現在は再び特任教授として教育・研究活動を継続しています。

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