上杉義達

上杉義達（うえすぎ よしさと）

高家旗本としての軌跡

上杉義達は、江戸時代後期に幕府の役職である高家（こうけ）を務めた旗本です。高家旗本であった上杉義長の子として生まれ、高家として代々幕府に仕えた上杉家の家系に連なります。江戸幕府における高家は、大名や旗本の中でも高い家格を持つ家柄から選ばれ、主に朝廷との儀礼的な折衝や連絡、将軍に代わって伊勢神宮や日光東照宮などへ代参すること、そして大名に対する儀礼指導などを担当する役職でした。石高はそれほど多くはありませんでしたが、将軍に近侍し、幕府の威儀を保つ上で重要な役割を担っていました。上杉家は、戦国時代の名門・上杉氏の流れを汲む家柄であり、江戸時代には高家として幕府に仕えることでその家格を維持していました。上杉義達もまた、こうした由緒ある高家の家系に生まれた者として、その役割を担うことになります。

将軍への拝謁

上杉義達の経歴で記録に残る最初の重要な出来事は、文政3年（1820年）4月8日に行われた、時の将軍・徳川家斉への拝謁です。江戸時代の幕臣にとって、将軍への拝謁は自身の身分を確認し、主君に臣下の礼を尽くす上で極めて重要な儀礼でした。特に高家は将軍に近侍する機会が多く、格式を重んじる立場であったため、この拝謁は若き義達にとって公的なキャリアの第一歩を示すものであったと考えられます。具体的にどのような経緯や形式で拝謁が行われたのか、その詳細は史料からは読み取れませんが、彼が幕臣として正式に将軍の前に出仕することを許された、人生における節目であったことは間違いありません。当時の将軍家斉は、すでに長期にわたり政権を担っており、脂が乗り切った時代でした。

家督の相続

文政7年（1824年）11月27日、上杉義達は父である上杉義長が隠居したことに伴い、上杉家の家督を相続しました。江戸時代の武家社会において、家督の相続は単に家財や所領を受け継ぐだけでなく、家名、家格、そして高家として幕府から与えられた公的な役割と責任の全てを引き継ぐことを意味しました。父の隠居による家督譲渡は、当時の武家における一般的な慣習であり、これにより義達は上杉家の当主として、高家旗本としての正式な立場に就きました。これ以降、彼は高家として幕府の儀礼や典礼に関わる職務に携わることになったと考えられます。家督を継ぐということは、先祖から受け継がれてきた家門の存続と繁栄に対する責任を負うことでもあり、義達は高家としての家名を損なわぬよう務めたことでしょう。

致仕、そして次代へ

上杉義達は、家督を相続してから約十八年後の天保13年（1842年）8月3日に致仕しました。致仕とは、武士が自らの意思で役職を辞し、隠居することを指す言葉です。この時、義達は家督を子の義正に譲りました。これにより、上杉家では再び世代交代が行われ、高家としての地位は嫡子へと引き継がれることになりました。義達が致仕を決断した具体的な理由は史料からは不明ですが、当時の慣習として、年齢を重ねたり、子の成長を見届けたりといった理由で家督を譲り、隠居生活に入ることは珍しいことではありませんでした。彼が生きた天保年間は、天保の改革が行われるなど、幕府の財政難や社会不安が増大しつつある時代でしたが、義達はそのような中でも高家としての職責を果たし、無事に家督を次代に引き継ぐことができたと言えるでしょう。致仕後の義達の晩年についての詳細は明らかではありませんが、おそらくは隠居の身として静かに余生を送ったものと思われます。

結び

上杉義達に関する史料は限られており、彼の具体的な人物像や、高家としての儀礼以外の特別な業績、政治的な関与については、残念ながら多くを知ることはできません。しかし、彼が生涯に経験した将軍への拝謁、父からの家督相続、そして子への家督譲渡に伴う致仕といった出来事は、江戸時代後期における高家旗本という特定の身分に属する武士の、典型的な人生の歩みを示していると言えます。上杉義達は、激動の幕末が迫る時代にあって、高家としての家名と格式を守り、その職務を全うし、次代へと引き継いだ人物として、江戸時代の武家社会の一端を静かに彩った存在でした。

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