上杉茂憲

上杉茂憲：最後の米沢藩主から沖縄県令へ

上杉茂憲は、江戸時代末期に米沢藩主として生まれ、明治時代、大正時代を通じて日本の政治の中枢を担った人物です。彼は、最後の米沢藩主、沖縄県令、貴族院議員など、数々の要職を歴任しました。その生涯は激動の時代を生き抜き、様々な局面で手腕を発揮した、興味深いものです。

激動の時代を生き抜いた藩主

1844年、米沢藩第12代藩主・上杉斉憲の長男として誕生した茂憲。幼少期は龍千代と名付けられ、その後憲章と名乗りました。1860年、将軍徳川家茂に謁見し、家茂の偏諱を受けて茂憲と改名、侍従に任じられます。

戊辰戦争では父と共に奥羽越列藩同盟に属し新政府軍と戦いますが敗北、降伏を余儀なくされます。父は藩主の座を追われ、茂憲は1868年、家督を継ぎました。しかし、藩政の実権は父斉憲が握っており、茂憲は直接政治に関与する機会はほとんどありませんでした。それでも、江戸や京都から届く長文の報告書に父が朱筆で指示を書き込むことで、政治教育を受けていたと言われています。

沖縄県令としての改革と挫折

1869年の版籍奉還により米沢藩知事となった茂憲は、旧藩士たちに旧藩の資金を分与。1871年の廃藩置県後、1872年から2年間イギリスに留学し、帰国後は宮内省に勤務しました。1881年、彼は沖縄県令に就任します。

沖縄県令として、茂憲は県内全土を視察し、住民から直接話を聞き、県の現状を把握しようとしました。その視察記録である『上杉県令巡回日誌』は、当時の沖縄の貴重な史料となっています。人材育成にも力を注ぎ、県費留学生制度を創設するなど、沖縄の産業発展に貢献しようと努力しました。

しかし、彼の改革は必ずしもスムーズに進んだわけではありません。地方役人の怠慢や不正を目の当たりにした茂憲は、上京して政府に改善を訴えますが、政府方針に反するとして却下されました。彼の熱意は政府高官の一部を動かし視察官が派遣されるものの、視察官の報告は茂憲の県政を批判するものでした。結果、2年で県令を解任されます。

それでも茂憲は、離任に際し私財を奨学金として県に寄付、沖縄で生まれた四女を「琉」と名づけるなど、沖縄への深い愛情を示しました。

池田成章の回想録によれば、茂憲の沖縄県令への任命は、旧大名のほとんどを無能と見なしていた政府において、沖縄県民の民心を考慮し、名家の権威を利用するための象徴的な人事であったようです。しかし、茂憲自身は熱心に県政改革に取り組み、池田成章もその精励ぶりを高く評価しています。

晩年と功績

1883年、茂憲は元老院議官に就任し、1884年には華族令により伯爵となります。1890年に元老院が廃止されると錦鶏間祗候に。その後、米沢に移住し、養蚕製糸織物の改良に尽力しました。

私財を投じて沖縄や米沢の教育、産業振興に貢献したため、晩年の生活は決して豊かではありませんでした。宮中行事の招待を断り続けるほどでした。妻への配慮から、明治35年になって初めて妻に礼服を贈っています。

1919年、76歳で亡くなりました。彼の墓は東京の興禅寺にありますが、沖縄県民有志によって米沢藩主廟所に記念碑が建立されています。これは、沖縄県民が彼をいかに慕っていたかの証でしょう。

上杉茂憲は、単なる旧大名ではなく、時代の変化に柔軟に対応し、真摯な姿勢で改革に挑み続けた、稀有な存在であったと言えるでしょう。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の人物の姿を通して、近代日本の歴史を理解する上で重要な示唆を与えてくれます。

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