上田薫 (画家)

上田薫：写実と抽象のはざまで揺らぐ、唯一無二の芸術世界

上田薫は、日本の現代美術史において重要な位置を占める画家の一人です。1928年東京に生まれ、その作風はしばしばスーパーリアリズムと評されます。しかし、上田自身は自身の作品を抽象絵画と捉えており、写実表現とは一線を画す独自の芸術性を追求し続けてきました。

彼の作品は、極めて写実的な描写で知られています。代表作として、中学校や高等学校の美術教科書にも掲載された、割れた生卵の殻から黄身が流れ落ちる瞬間をとらえた作品が挙げられます。この作品は、生々しい質感と、一瞬の動きを捉えたダイナミックな表現が見る者の心を捉え、高い評価を得ています。

他にも、スプーンですくわれたアイスクリーム、儚く消えていくシャボン玉、そして水の流れる様など、日常のありふれたモチーフを題材にしながらも、上田独特の視点と卓越した技術によって、それらに新たな命を吹き込んでいます。これらの作品は、単なる写実を超えた、見る者の心に深く訴えかける何かを秘めているのです。

上田の芸術への道は、決して平坦なものではありませんでした。医学部進学を目指したものの挫折を経験し、その後、富永惣一氏との出会いをきっかけに東京藝術大学に進学します。1954年に同大学絵画科油画専攻を卒業後、MGM社のポスター国際コンクールで国際大賞を受賞するなど、グラフィックデザイナーとしても成功を収めます。しかし、その活動の中で、彼は10年ほど絵画から離れる時期もありました。

1975年、現代日本美術展で東京国立近代美術館賞を受賞したのをきっかけに、再び画家としての道を歩み始めます。その後も数々の賞を受賞し、1985年には茨城大学教育学部教授、1992年には山野美容芸術短期大学教授などを歴任しました。

上田薫の作品は、その写実的な描写と、同時に見る者の想像力を掻き立てる抽象的な要素が融合した、独特の表現様式を持っています。それは、彼が自身の作品を「抽象絵画」と呼ぶ所以であり、彼の芸術の真髄と言えるでしょう。

近年では、2023年に高松市美術館会館35周年記念 上田薫展が開催されるなど、その高い芸術性と独自性は、現在もなお高く評価されています。また、『上田薫画集』（求龍堂、2018年）などの著書も発表し、後世への貢献も続けています。彼の作品は、これからも多くの人々に感動と刺激を与え続けることでしょう。

上田薫の生涯と作品は、医学部進学の挫折から芸術家としての成功、そしてグラフィックデザインとの関わりを経て、独自の芸術世界を確立した、波乱に満ちた道のりを示しています。彼の作品は、写実と抽象のはざまで揺らぎながら、独自の表現を追求した、稀有な存在であることを物語っているのです。

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