上行口蓋動脈

上行口蓋動脈（じょうこうこうがいどうみゃく）

概要

上行口蓋動脈は、ヒトの頭頸部に位置する重要な血管の一つです。これは顔面動脈の起始部近くから分岐する比較的細い動脈であり、咽頭の側面を上向きに走行します。主に軟口蓋、口蓋扁桃、耳管といった口腔や咽頭の奥にある構造に血液を供給し、これらの機能維持に不可欠な役割を果たしています。

走行

この動脈は、顔面動脈が舌動脈や上甲状腺動脈などと分岐する起始点の近くから派生します。血管はまず、茎状突起と呼ばれる骨の突起に付着する二つの筋肉、すなわち茎突舌筋と茎突咽頭筋の間を通って上昇を開始します。その後、咽頭の側面に沿ってさらに上行し、咽頭の収縮に関わる上咽頭収縮筋と、咀嚼に関わる内側翼突筋という二つの筋肉の間に沿って走行を続けます。最終的に、この動脈は頭蓋骨の底近くまで達します。

分岐と分布

上行口蓋動脈は、その走行の途中、特に口蓋帆の運動に関わる口蓋帆挙筋の近くで、通常二つの主要な枝に分かれます。

第一の枝

一方の枝は、まずその近くにある口蓋帆挙筋に栄養を供給します。その後、上咽頭収縮筋の上端部分を越えて、やや蛇行しながら走行を続けます。この枝は主に軟口蓋の組織や、口蓋に存在する小さな口蓋腺に血液を送ります。さらに、この枝は反対側の上行口蓋動脈から分岐した同名の枝や、顎動脈から分岐する下行口蓋動脈の枝とも繋がり（吻合）、血管ネットワークを形成します。この吻合によって、特定の血管が閉塞した場合でも、周辺組織への血流が確保されやすくなります。

第二の枝

もう一つの枝は、上咽頭収縮筋の組織を直接貫通して進みます。この枝は、口蓋の後方にあるリンパ組織である口蓋扁桃（いわゆる扁桃腺）や、中耳と咽頭を結ぶ管である耳管（エウスタキオ管）に血液を供給します。この枝もまた、顔面動脈から口蓋扁桃へ向かう扁桃枝や、内頸動脈や外頸動脈から分岐する上行咽頭動脈の枝と繋がり、これらの領域の血流供給を補完します。

これらの分岐と分布パターンにより、上行口蓋動脈は嚥下や発声、中耳圧の調整など、頭頸部の複雑な機能に関わる重要な構造への安定した血流供給を支えています。

関連事項

上行口蓋動脈は、下行口蓋動脈と共に、口蓋への血流供給において重要な役割を担います。下行口蓋動脈は上行口蓋動脈とは異なる起始（顎動脈）を持ちますが、口蓋において互いに吻合し、血流ネットワークを構築しています。

このように、上行口蓋動脈は顔面動脈から派生し、咽頭側面を上行しながら、口蓋や扁桃、耳管といった領域に血液を供給する、解剖学的に重要な血管です。

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