上野焼

上野焼：豊前国の伝統が息づく陶器

福岡県田川郡香春町、福智町、大任町で生産される上野焼は、その歴史と技法、そして生み出される独特の風合いから、日本の伝統工芸界において重要な地位を占めています。その起源は、豊臣秀吉の朝鮮出兵（文禄・慶長の役）に遡ります。加藤清正が朝鮮から連れ帰った陶工、尊楷（上野喜蔵）が、細川忠興の小倉城入城に伴い豊前国上野（現在の福岡県田川郡）に招かれ、開窯したのが始まりです。

最初に築かれた窯は、皿山窯（本窯）、釜の口窯、岩谷窯（唐人窯）の3つで、これらは現在「上野古窯」と呼ばれ、上野焼の歴史の始まりを物語る重要な遺跡となっています。その後、江戸時代には茶人や文化人に高く評価され、特に小堀遠州に認められ、遠州七窯の一つに数えられるほど人気を博しました。遠州好みの洗練されたデザインと、上野焼独特の風合いは、数々の茶室を彩り、日本の茶道文化に貢献しました。

しかし、明治時代に入ると、様々な要因により上野焼は衰退の道を歩みます。伝統を守り続ける窯元は減少し、その存続が危ぶまれる時期もありました。しかし、1902年、関係者らの努力によって見事に復興を果たし、伝統を守り続ける技術と精神が脈々と受け継がれてきました。そして、1983年には通商産業省（現在の経済産業省）より伝統的工芸品として指定を受け、その高い技術と歴史的価値が改めて認められることとなりました。

上野焼の最大の特徴は、何と言ってもその軽さと薄さです。他の陶器と比べて生地が薄く、軽量であるため、扱いやすく、手に取った時の感触も魅力の一つです。また、使用する釉薬の種類の豊富さも特筆すべき点です。青緑釉、鉄釉、白褐釉、黄褐釉など、多様な釉薬を用いることで、それぞれの釉薬が持つ特性を生かし、独特の風合いを生み出しています。特に、窯変と呼ばれる、窯の中で釉薬が溶け、千変万化の模様を作り出す技法は、上野焼の大きな魅力となっています。自然の力と人間の技が融合した、唯一無二の芸術作品といえるでしょう。

絵付けは基本的に用いず、釉薬の複雑な変化と、土そのものの質感を生かすことで、シンプルながらも奥深い美しさを表現しています。現代においても、伝統的な技法を守りながら、現代的なデザインを取り入れた作品も生み出され、幅広い層に支持されています。上野焼は、単なる日用品ではなく、日本の伝統と文化、そして自然の織りなす芸術作品として、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

現在も上野焼協同組合を中心に、伝統を守りながら、後継者育成にも力を入れています。福智町公式ホームページなどを通じて、上野焼の魅力を発信し、その伝統を次世代へと繋いでいく取り組みが続けられています。上野焼は、単なる工芸品ではなく、地域の文化、歴史、そして人々の生き様を映し出す、貴重な存在なのです。

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