下の森

下の森は、京都市上京区に位置する、かつて花街として知られた場所の通称です。正式な地名ではなく、あくまで地域を指す通称として用いられてきました。

その名の由来は、かつて北野天満宮の一部であった森に遡ります。上七軒が北側に位置する茶屋街として発展したのに対し、その南側に位置することから「下の森」と呼ばれるようになったと考えられています。

下の森で花街が誕生した年代は明確には分かっていませんが、文献によれば、上七軒と同様に茶屋街から発展し、既に存在していたことが記録されています。江戸時代中期には最盛期を迎えましたが、その後、幾度かの取り締まりを経て、上七軒の傘下に置かれることとなりました。

明治時代に入ると、上七軒や五番町の一部として繁栄を続けました。しかし、一条通や中立売通に京都電気鉄道（後の京都市電堀川線、通称「北野線」）が開通したこと、そして貸座敷取締規定の改正など、時代の変化の波が押し寄せます。これらの要因が重なり、1926年（昭和元年）頃には花街としての歴史に幕を閉じたと考えられています。

現在、下の森は活気ある商店街として賑わいを見せており、かつての花街の面影はほとんど残っていません。しかし、商店街の裏手に足を踏み入れると、ひっそりと佇む花街時代の建築物を目にすることができます。これらの建物は、静かにその歴史を物語り、往時の華やかな雰囲気を偲ばせます。

参考文献：

『京都府下遊廓由緒』（新撰京都叢書刊行会編『新撰 京都叢書 第9巻』に収録、臨川書店 1986年）
『京都花街ものがたり』 加藤政洋著 朝日選書 2009年

もう一度検索