下喉頭動脈

下喉頭動脈（かこうとうどうみゃく）

下喉頭動脈（inferior laryngeal artery）は、ヒトの頭頸部に位置する重要な動脈の一つです。喉頭、特にその後部の構造に血液を供給する役割を担っています。この動脈は、一般的に下甲状腺動脈の終枝として分岐し、その走行や供給領域は喉頭の機能維持に不可欠です。

走行と周囲構造

下喉頭動脈は、反回神経（recurrent laryngeal nerve）と密接に並走しながら、気管（trachea）と食道（esophagus）の間に形成される気管食道溝（tracheoesophageal groove）を上方向へと進みます。この神経と動脈の緊密な関係は、特に頸部手術を行う際に重要となります。

気管食道溝を上行した後、下喉頭動脈は下咽頭収縮筋（inferior pharyngeal constrictor muscle）の最下部に位置する輪状咽頭筋（cricopharyngeal muscle）の一部を貫通します。この貫通部を経て、最終的に喉頭の後部（posterior part of the larynx）へと到達します。

栄養供給領域

喉頭の後部に到達した下喉頭動脈は、その領域の筋肉（muscles）や粘膜（mucosa）に対して栄養豊富な血液を供給します。これにより、声帯の運動に関わる内喉頭筋や、嚥下に関わる輪状咽頭筋など、重要な構造が機能するための酸素や栄養が運ばれます。特に喉頭後壁への供給は、発声や嚥下といった喉頭の基本的な機能に関わる部分を支えています。

他の動脈との連絡

下喉頭動脈は、単独で喉頭を栄養するわけではなく、他の血管との吻合（anastomosis）を形成して血流供給ネットワークを構築しています。主要な連絡相手としては、反対側の下喉頭動脈の枝が挙げられます。これにより、左右からの血流が相互に補完される経路が形成されます。

さらに、上甲状腺動脈（superior thyroid artery）の枝である上喉頭動脈（superior laryngeal artery）とも吻合します。上甲状腺動脈は外頸動脈から分岐し、上喉頭動脈は甲状舌骨膜を貫通して喉頭の上部に至ります。下喉頭動脈と上喉頭動脈が連結することで、喉頭全体への血流供給ネットワークが強化されます。

喉頭への全体的な血流供給

喉頭への血流供給は、主に以下の3つの血管によって担われています。

下喉頭動脈（inferior laryngeal artery）: 通常、下甲状腺動脈の枝として分岐し、喉頭後部や下方に血液を供給します。
上喉頭動脈（superior laryngeal artery）: 上甲状腺動脈の枝として分岐し、喉頭上部に血液を供給します。
* 上甲状腺動脈輪状甲状枝（cricothyroid branch of superior thyroid artery）: 上甲状腺動脈の枝の一つで、喉頭の前方、特に輪状甲状筋周辺に血液を供給します。

これらの血管が協調して機能することで、複雑な構造を持つ喉頭が必要とする酸素と栄養が適切に供給され、発声、呼吸、嚥下といった生命維持に不可欠な機能が維持されています。下喉頭動脈は、この重要な供給システムの一翼を担う血管として位置づけられます。

臨床的には、下喉頭動脈の損傷や閉塞が、隣接する反回神経への影響を通じて声帯運動障害（反回神経麻痺）を引き起こす可能性があるなど、重要な意味を持ちます。甲状腺や喉頭周辺の手術においては、その正確な走行を理解し、血管および神経の損傷を避けることが極めて重要視されます。

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