下工弁慶号

下工弁慶号（くだこうべんけいごう）

下工弁慶号は、山口県下松市で保存されている軽便鉄道用蒸気機関車の愛称です。この機関車は、762mmという狭い軌間で使用され、車軸配置が0-4-0という、2軸の動輪のみを持つ飽和式タンク機関車です。特に、ボイラーの上に水槽が鞍のように設置された「サドルタンク」と呼ばれる形態は、日本国内では珍しいものです。

製造と経緯

下工弁慶号は、1907年（明治40年）に東京石川島造船所（現在のIHI）で製造された、軽便鉄道用の5.5t蒸気機関車であると推定されています。詳しい経緯は不明な点もありますが、当初は海軍の専用線で運行され、1934年（昭和9年）に役目を終えた後、下松工業学校（現在の山口県立下松工業高等学校）に教材として払い下げられました。

その後、47年の時を経て動態復元がなされ、一時的に運行が再開されましたが、現在は休止状態となっています。2007年（平成19年）以降は、残念ながら運転は行われていません。

車歴

1907年（明治40年）：東京石川島造船所で製造。海軍徳山練炭製造所内で荷役用として使用されました。
1934年（昭和9年）：下松工業学校へ、原動機実習の教材用として払い下げられました。
1951年（昭和26年）：下松工業学校の正門脇に展示されました。
1979年（昭和54年）1月：下松工業学校の職員と生徒によって復元作業が開始されました。
1981年（昭和56年）10月9日・10日：下松工業学校の創立60周年記念式典で、校庭にて公開運転が実施されました。その後、日本各地で公開走行や展示が行われました。
1988年（昭和63年）3月12日：下津井電鉄に貸与され、客車2両を牽引して下津井駅構内で運転されました。
1991年（平成3年）4月1日：下松工業高校から下松工業会（同窓会）へ所有権が移管されました。9月には、下津井電鉄が廃止されたため、下松へ返却されました。10月15日には、下松工業高校の創立70周年記念として校庭で運転されました。
1992年（平成4年）3月16日：柳井卸売団地（柳井卸センター）の敷設線路で、下津井時代と同じ客車を牽引して運転を開始。4月から10月の第2日曜日を運転日としていました。
1996年（平成8年）：卸売団地の敷地に道路計画があることなどを理由に、運転を終了。10月には日立製作所笠戸工場で走行後、下松市に寄贈され、下松市役所前の展示格納庫に搬入されました。
1997年（平成9年）：ボイラーの故障により、運行が不可能となりました。
2004年（平成16年）：3年間の期限で三岐鉄道北勢線阿下喜駅前に移設されました。
2006年（平成18年）3月：前年から取り組まれてきた動態復元が完了し、復活運転を果たしました。
2007年（平成19年）4月：下松市に戻りました。7月10日から9月9日には、「大鉄道博覧会」（江戸東京博物館）で展示されました。
2008年（平成20年）1月18日：老朽化と具体的な運転計画がないことを理由に、下松市がボイラーの更新検査を見送ったため、法的に走行不能となり、静態保存へ移行しました。
2014年（平成26年）1月現在：下松市役所グリーンプラザ展示格納庫に展示されています。

現状

現在、下工弁慶号は下松市役所のグリーンプラザ展示格納庫で静態保存されています。往時の姿を偲ぶことはできますが、再び力強く走り出す姿を見ることは叶いません。しかし、その歴史と貴重な形態は、多くの鉄道ファンや地元の人々に愛され続けています。

参考文献

白川淳『全国保存鉄道』JTBパブリッシング〈JTBキャンブックス〉、1993年

外部リンク

特定非営利活動法人下松べんけい号を愛する会「下工弁慶号」資料より
一般社団法人下松工業会（下松工業高校のOB会）

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