下梨地主神社

下梨地主神社

富山県南砺市下梨地区に鎮座する下梨地主神社は、ユネスコ世界遺産にも登録された合掌造り集落で知られる五箇山地方に位置する古社です。この地域は、南北朝時代に南朝方の落人が流入し、新たな集落が形成された歴史を持ちます。下梨地主神社もこの時期に創建されたと考えられており、境内に残る狛犬や木像は南北朝時代の作と推定されています。これは、五箇山地方における社寺の歴史を物語る貴重な手がかりであり、五箇山最古の文字資料が見つかったとされる大豆谷八幡宮や上梨白山宮とほぼ同時期に神社の基盤が築かれた可能性を示唆しています。

古くは「観音堂」と呼ばれていたことからもわかるように、かつては神仏習合の影響を受けていました。正徳2年（1712年）に作成された記録にもその名が見えます。現在の本殿の建立年は明らかではありませんが、拝殿は天保12年（1841年）に建てられたと伝えられています。

神社の御神体には、興味深い伝承があります。夢のお告げによって奥山に生えていた大きな杉の木から氏神様を彫ることになり、村人が総出で作業にあたったといいます。この際、作業中に日が暮れてしまい、作業を行っていた場所、あるいは迎えの村人が待っていた場所が、後に「クレモチ」という地名の由来になったと語り継がれています。

年間の主な祭礼としては、春季祭礼が3月23日に、秋季祭礼が9月23日に執り行われます。

特色ある伝統行事

下梨地主神社では、春季祭礼とは別に、地域に根ざした二つの特色ある伝統行事が継承されており、これらは南砺市の無形民俗文化財に指定されています。

下梨御巡幸の儀

毎年4月23日に行われる「下梨御巡幸の儀」は、五箇山地域では珍しい神輿の巡行を伴う祭礼です。祭りの前日、22日の夕刻には地主神社で厳かな神事が執り行われ、奥殿に祀られている御神体が神輿に移されます。

祭礼当日、23日には、五色の鮮やかな旗を先頭に、勇壮な獅子舞、そして笛や太鼓といった鳴り物を奏でる人々、神主、そして神前への供物を捧げる人々が続く長い行列が編成され、集落内を巡りながら神社へと向かいます。神社では氏子たちが用意したお神酒が振る舞われ、境内に入った獅子舞が舞を奉納すると、祭りの式典が始まります。この神輿巡行の祭りは、地域文化の独自性を示すものとして評価され、平成13年（2001年）12月18日に旧平村（現南砺市）の無形民俗文化財に指定されました。

下梨の節供行事

もう一つの特色ある行事が、毎年4月3日に行われる「下梨の節供行事」です。これは、地主神社へ「節供（節句）の餅」を供える伝統的な習俗であり、本来の節句である3月3日ではなく、古くからの陰暦に合わせて現在の4月3日に実施されています。

この行事の最も注目すべき点は、餅作りの一連の作業が、地域に住む男性のみによって行われることです。伝承によると、下梨地主神社の祭神が女神であるため、男性が心を込めて作った供え物がより喜ばれるためだといいます。

参加する男性たちは、雪解けが始まる3月頃から、餅に使うよもぎを摘み始めます。行事当日は、入浴するなどして身を清めてから餅作りの作業に入ります。米粉をこねて団子にし、蒸し上げたものに、軽くゆでたよもぎを混ぜてつきます。最初に、お供え用の大鏡餅を三枚重ねて作り、氏神様に供えます。その後、集落の人々が分け合って食べるための餅を延ばし、特徴的なひし形に切り分けます。祭事の開始時刻は深夜の午前0時とされており、身なりを改めて宮へ参拝します。そして、翌朝のうちに切り分けた餅を各家へ配って、節句を祝うのです。神主ではなく氏子自身の手で神前での行事を行う点なども含め、五箇山地方の古式ゆかしい習俗が色濃く残されていることが評価され、平成元年（1999年）6月10日に旧平村（現南砺市）の無形民俗文化財に指定されました。

下梨地主神社とその祭礼は、五箇山の厳しい自然環境の中で育まれた人々の信仰心や、地域共同体の強い結びつきを今に伝える貴重な文化遺産といえるでしょう。特に「御巡幸の儀」と「節供行事」は、地域の歴史と生活に深く根差した特色ある習俗として、未来へと大切に継承されていくことでしょう。

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