下梨村宅左衛門

下梨村宅左衛門

下梨村宅左衛門（しもなしむら たくざえもん）は、江戸時代中期に加賀藩の支配下にあった砺波郡五箇山の赤尾谷組において、代官である十村（とむら）の要職に就いた人物です。高桑を苗字としており、当初は「宅右衛門」と名乗っていましたが、享保16年（1731年）頃に「宅左衛門」と改名しました。

加賀藩前田家が五箇山の統治を開始した当初、藩は瑞泉寺下梨道場（後の瑞願寺）の五ヶ山市助（ごかやまいちすけ）を代官として用いる体制を敷きました。天正13年（1585年）に初代五箇山市助が任命されて以降、市助家は五代にわたりおよそ100年間、この代官職を世襲しました。しかし、慶安4年（1651年）には、市助家と同格の十村として細嶋村源太郎（ほそじまむらげんたろう）が新たに任じられます。源太郎は五箇山の東半（小谷・利賀谷、後の「利賀谷組」）を、市助は西半（赤尾谷・上梨谷・下梨谷、後の「赤尾谷組」）をそれぞれ管轄し、これ以降、五箇山は二つの区域に分割して統治されることになったのです。

五代目市助が亡くなった際、その後を継ぐべき息子がまだ幼かったため、元禄元年（1688年）4月28日に後任として松尾村与次兵衛（まつおむらよじべえ）が選ばれました。与次兵衛は十村に就任する以前、延宝5年（1677年）2月に下梨村の宗兵衛（むねべえ）の次男である長左衛門（ちょうざえもん）を婿養子に迎えていました。長左衛門は元禄15年（1702年）7月10日に与次兵衛の後を継ぐと、翌元禄16年（1703年）2月には十村役のまま下梨村へ移り住み、以後、下梨村長左衛門と名乗るようになります。

宅左衛門は、この下梨村長左衛門の息子として生まれました。正徳3年（1713年）10月6日、父から赤尾谷組の十村の役目を引き継ぎます。享保16年（1731年）4月4日には、利賀谷組の二代目祖山村太郎助（そやまむらたろすけ）が十村役を辞任しましたが、理由は定かではないものの、およそ一年間、宅左衛門が一時的に利賀谷組の十村も兼務することになりました。このように、次の十村が正式に決まるまでの間、暫定的に役を担った者は「当分才許」（とうぶんさいきょ）という役職名で呼ばれていました。宅左衛門が十村であった享保15年（1730年）には、加賀藩が買い上げる予定量を超える大量の塩硝（えんしょう、火薬の原料）が五箇山から持ち込まれ、藩が翌年からの買い上げを停止すると通告するという事件が発生していました。これを受けて、享保17年（1732年）中に宅左衛門の認可のもと、「上煮の株立て制」（うわにのかぶたてせい）という新たな制度が始まったとする記録が残されています。

享保17年（1732年）6月16日からは、三代目太郎助が利賀谷組の十村となりましたが、享保19年（1734年）12月16日には程なくして隠退しました。同年12月からは、再び宅左衛門が「当分才許」として利賀谷組の職にあたっています。その後、元文5年（1740年）7月13日からは岩渕村伊右衛門（いわぶちむらいえもん）が利賀谷組の十村に就任しましたが、祖山村で起きた大槻騒動（おおつきそうどう）によってその職を追われ、宅左衛門は三度目の「当分才許」を担うことになりました。

延享元年（1744年）の拝領高（はいりょうだか、藩から与えられた知行高）に関する書面によると、両組の十村を兼任して精励した功績が認められ、砺波郡預り高（とやまぐんあずかりだか）を拝領しています。さらに宝暦4年（1754年）には御扶持人（おふちじん）という地位を与えられ、藩から手当が支給されるようになりました。これは、十村役にとっては最高の栄誉とされたものです。

順調に出世を遂げた宅左衛門でしたが、理由は不明ながら、突然金沢の牢獄に収監されることになります。そして、宝暦9年（1759年）4月21日、その牢の中で没しました。

宅左衛門の死後、後継者には平野部に住む三清村仁九郎（さんせいむらじんくろう）と大西村加伝次（おおにしむらかでんじ）が選ばれました。これ以降、五箇山以外の地域から十村が任じられることが一般的となります。これは、五箇山という山間地域に対する加賀藩の支配体制をより強化しようという意図があったと推測されています。宅左衛門の波乱に満ちた生涯は、五箇山の十村制度が地域住民から外部の人物へと委ねられていく転換期と重なっていました。

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