下見吉十郎

下見 吉十郎の生涯と功績

下見 吉十郎（あさみ きちじゅうろう、1673年 - 1755年）は、江戸時代に活動した六部僧で、特に大三島を中心にサツマイモの栽培を広めたことで知られています。彼は松浦宗案、義農作兵衛と共に「伊予の三農」と称され、農業の振興に寄与しました。吉十郎は「秀譽」という名で、号は「古岩独釣」とも呼ばれています。

甘藷地蔵としても知られる吉十郎は、地域の人々を飢饉から救ったとして、現在も大三島の向雲寺をはじめとする様々な場所に祀られています。向雲寺の甘藷地蔵は愛媛県指定史跡にも指定されています。

生い立ちと経歴

吉十郎は伊予国の豪族である河野氏の子孫として、1673年に大三島の瀬戸村で生まれました。彼は妻と共に4人の子供をもうけましたが、全て幼い頃に亡くしてしまいます。この悲劇を受けて、1711年に六部僧としての道を選び、大三島から各地へ旅立つことにしました。彼の旅路は広島、京都、大阪、九州と続き、彼の教えを求める人々に歩み寄る日々が始まりました。

特に注目すべきは、彼が薩摩国伊集院村での訪問中に起こった出来事です。農民・土兵衛のもとで振舞われたサツマイモに触れ、この作物の生命力を認識しました。当時、瀬戸内海周辺は度重なる飢饉に苦しんでおり、サツマイモがこの土地での栽培に適していることを学びます。

サツマイモの普及

吉十郎は故郷の大三島でサツマイモを育てることを強く希望しましたが、薩摩藩による芋の持ち出し禁止がありました。それにも関わらず、彼は土兵衛に感情を込めて懇願し、ついには種芋を譲り受けます。吉十郎は仏像の穴に種芋を隠し、危険を承知で薩摩国を出て故郷へ戻りました。このとき、彼は「公益のために国禁を破ることを恐れない」と述べ、自らの信念を示しました。

帰郷後、吉十郎はサツマイモの栽培に成功し、その成果を島内の農民と分かち合いました。彼の栽培したサツマイモは次第に大三島から周辺の島々へ広まり、地域の人々の食生活を豊かにしました。

特に享保の大飢饉があった1740年代では、当時100万人もの餓死者が出たにもかかわらず、大三島周辺では誰一人として餓死することはありませんでした。吉十郎はこの時、苦境にある松山藩に対して米700俵を寄付し、その行動が感謝の印として記録されています。

地域への影響と信仰

吉十郎の功績は地域に根付いており、島民たちは彼を「甘藷地蔵」として崇拝しました。向雲寺を含む20体以上の地蔵菩薩が各地に作られ、吉十郎をしのぶ祭りが毎年行われています。1920年には吉十郎の功績を称える碑が建てられ、1948年には「甘藷地蔵」が愛媛県の指定史跡に指定されました。現在も、その影響は色濃く残り、吉十郎の子孫が向雲寺の近くに住み、地域の人々に温かく迎え入れられています。

毎年の甘藷地蔵祭りや、いも地蔵をモチーフにした和菓子作りが行われており、吉十郎の名や業績は今も地域に深く根付いています。吉十郎の物語は、困難な時に希望を提供する象徴として、今後も人々の心に生き続けることでしょう。

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