不可分債務

不可分債務とは

不可分債務とは、複数人が債務を負っている場合に、その債務の内容が性質上分割できないものを指します。例えば、共同で絵画を制作する契約を結んだ場合、それぞれの債務者が絵画の一部だけを制作することはできません。このような場合に、債務は不可分であるとされます。

民法改正による不可分債務の明確化

2017年の民法改正（2020年4月1日施行）以前は、不可分債務と連帯債務の区別が明確ではありませんでした。改正前の民法430条では、「数人が不可分債務を負担する場合」と規定されていたものの、どのような場合に不可分となるかの判断基準は、債務の性質や当事者の意思解釈に委ねられていました。

しかし、改正後の民法では、債務の目的が性質上可分な場合は分割債務、性質上不可分な場合は不可分債務と定義され、区別が明確化されました。さらに、性質上可分な債務であっても、法令の規定や当事者間の合意によって連帯債務が成立する場合があると整理されました。

これにより、性質上不可分な債務は不可分債務、当事者の合意によるものは連帯債務として扱われることが明確になりました。

連帯債務規定の準用

改正後の民法では、不可分債務に対して連帯債務の規定（440条を除く）が準用されることになりました（430条）。これにより、不可分債務の効力に関する解釈がより明確になりました。

不可分債務の効力

不可分債務には、債権者と債務者間の関係（対外的効力）と、債務者間の関係（対内的効力）の二つの側面があります。

対外的効力

対外的効力とは、債権者が各債務者に対してどのような請求ができるかという関係です。連帯債務の規定が準用されるため、債権者は債務者のうちの一人に対して、あるいは同時または順次に全員に対して、債務の全部または一部の弁済を請求することができます（430条、436条）。

対内的効力

対内的効力とは、債務者の一人と債権者の間で一定の事由が生じた場合に、他の債務者と債権者の関係にどのような影響があるかという関係です。これも連帯債務の規定が準用され、一定の事由は他の債務者にも影響を及ぼします。

絶対的効力（絶対効）

以下の事由は、他の債務者にも効力を生じる絶対的効力（絶対効）を持ちます。

弁済（供託や代物弁済を含む）：債務者の一人が弁済を行うと、他の債務者の債務も消滅します（430条、438条）。
更改：債務の内容を変更すると、他の債務者にもその変更が及びます（430条、438条）。
相殺：債務者の一人が債権者に対して債権を持っている場合、相殺を行うと他の債務者の債務も減額されます（430条、439条）。

ただし、相殺については改正前の民法では他の債務者の相殺権の援用が認められていましたが、過剰な介入であるという批判を受けて改正され、現在は他の債務者は債権者に対して履行拒絶ができるにとどまります（439条2項）。

相対的効力（相対効）

上記以外の事由は、他の債務者には影響を及ぼさない相対的効力（相対効）にとどまります（430条、441条）。例えば、債務者の一人が債務免除を受けたとしても、他の債務者の債務は免除されません。

分割債務への変更

不可分債務が、その後の状況の変化によって分割債務（可分債務）に変更された場合、各債務者は自身の負担部分についてのみ履行責任を負うことになります（431条）。例えば、共同で事業を行っていた債務者がそれぞれ独立した事業を行うようになった場合などが該当します。

まとめ

不可分債務は、債務の目的が性質上分割できない場合に成立する債務です。2017年の民法改正により、連帯債務との区別が明確化され、その効力についても連帯債務の規定が準用されることになりました。これにより、不可分債務に関する解釈がより明確になり、実務においても扱いやすくなりました。

参考文献

民法

関連項目

債権
分割債務
不可分債権
法用語一覧

もう一度検索