供託

供託（きょうたく）とは

供託とは、一定の法律上の目的を達成するために、法令の規定に基づいて、金銭、有価証券などの物件（供託物）を供託所（法務局、地方法務局など）に提出し、その管理を委ねることを指します。

日本における供託

日本の供託制度は、供託法などの法令によって手続きが定められています。供託は、その目的によって以下の5種類に分類されます。

1. 弁済供託
2. 担保供託（保証供託）
3. 執行供託
4. 保管供託
5. 没取供託

弁済供託

弁済供託とは、債務者が債務を免れるために、債権者のために弁済の目的物を供託する制度です。これは民法に規定されており、債権者が弁済の受領を拒否したり、受領することができない場合、または債権者が不明な場合に利用されます。

弁済供託の要件

弁済供託が認められるのは、以下の3つの場合です。

債権者の受領拒絶: 債務者が弁済を提供したにもかかわらず、債権者がその受領を拒んだ場合。ただし、債務者は原則として口頭での弁済の提供をする必要があります。例外として、債権者が受領を明確に拒否している場合は、口頭の提供を省略できます。
債権者の受領不能: 債権者が何らかの理由で弁済を受け取ることができない場合。債権者に帰責事由があるかどうかは問われません。
債権者不確知: 債務者が誰が債権者であるかを特定できない場合。例えば、債権譲渡が複数回行われた場合などが該当します。ただし、債務者に過失がある場合は供託できません。

弁済供託の内容と方法

供託する内容は、本来の債務と同一でなければなりません。債務の一部のみを供託しても、その部分について弁済供託の効果は生じません。供託は、債務の履行地の供託所で行う必要があり、金銭や有価証券の場合は法務局や地方法務局が、その他の物品の場合は法務大臣が指定する倉庫業者や銀行が供託所となります。

供託所に供託できない場合は、裁判所に供託物保管者の選任を請求し、その者に供託することができます。また、供託者は、供託後に遅滞なく債権者に通知しなければなりません。

弁済供託の効果

有効な弁済供託がされると、債務者は供託時に債務を免れます。これは、2020年4月1日に施行された改正民法で明文化されました。

担保供託（保証供託）

担保供託または保証供託とは、将来の支払いを担保するための供託です。

営業保証供託

営業保証供託は、営業活動によって生じる債務や損害を担保するために、事業者が行う供託です。宅地建物取引業法や旅行業法などの法律で、特定の事業者が供託を義務付けられています。

裁判上の保証供託

裁判上の保証供託は、訴訟や強制執行などの手続きにおいて、相手方に生じる可能性のある損害を担保するための供託です。裁判所の決定に基づいて、担保額や期限が定められます。

執行供託

執行供託は、民事執行手続きにおいて、執行機関や当事者が執行の目的物を供託することを指します。

配当留保供託

配当を受けるべき債権者の債権が条件付きの場合などには、裁判所書記官が配当額を供託します。

不出頭供託

配当を受けるべき債権者が裁判所に出頭しない場合、裁判所書記官が配当額を供託します。

第三債務者による供託

債権執行において、第三債務者は、差し押さえられた債権の全額を供託できます。また、複数の差押債権者がいる場合は、供託が義務付けられます。

保管供託

保管供託は、他人の物をすぐに処分できない場合に、一時的に保管するための供託です。

質権の第三債務者の供託

質権が設定された債権の弁済期が、質権者の債権の弁済期より前に到来した場合、質権者は第三債務者に供託を求めることができます。

商人間の売買の解除に伴う目的物の供託

商人間の売買で、買主が売買契約を解除した場合、売主の費用で目的物を保管または供託する必要があります。

執行停止中の売却による売得金の供託

動産執行において、差押物の価値が著しく低下するおそれがある場合、執行官は差押物を売却し、その売却代金を供託します。

没取供託

没取供託とは、一定の場合に供託物の所有権を剥奪し、国や地方公共団体に帰属させることを目的とする供託です。

選挙供託

選挙に立候補する際には、所定の金額または国債を供託する必要があります。これは、候補者の乱立を防ぐための制度です。一定の得票数に達しない場合は、供託金は国庫または地方公共団体に帰属します。

供託の手続き

供託の手続きは、供託法と供託規則に定められています。供託を申請するには、所定の書式で供託書を作成し、供託物を添えて供託所に提出します。

現金取扱庁の場合

現金取扱庁（法務局や地方法務局など）では、供託書と供託金を直接提出します。

非現金取扱庁の場合

非現金取扱庁では、供託書を受け付けた後、供託者は指定された期日までに日本銀行に供託物を納入します。

被供託者の表示

弁済供託などの場合、供託書には被供託者の住所と氏名を記載する必要があります。一方、営業保証供託などでは、被供託者の記載は不要です。

供託通知書

弁済供託などで、供託者は被供託者に供託の通知をする必要があります。供託所は、供託の受理後、被供託者に供託通知書を発送します。

供託物の払渡し

供託が完了した後、供託の種類に応じて、供託者または被供託者が供託所に対して供託物の払い渡しを請求できます。供託者が払い戻しを求める権利を「供託物取戻請求権」、被供託者が払い戻しを求める権利を「供託物還付請求権」といいます。

供託物の取戻し

供託者は、一定の条件下で供託物を取り戻すことができます。

弁済供託の場合、債権者が供託を受諾したり、供託が有効と確定した場合は、取り戻すことはできません。
供託が錯誤により無効な場合や、供託の原因が消滅した場合には、取り戻しが可能です。

供託物の還付

被供託者は、供託物の取り戻しが行われるまで、権利を証明して供託物の還付を請求できます。

弁済供託の場合、債権者は供託物の還付を請求できますが、債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合は、その給付を行わなければ供託物を受け取ることができません。

各国における供託

供託制度は、日本だけでなく、アメリカやイギリスなど、多くの国で採用されています。

アメリカ

アメリカでは、債権者の受領拒否や債権者が複数いる場合などに供託（interpleader）が利用されます。供託先は裁判所となり、供託物は金銭が一般的です。

イギリス

イギリスでは、裁判所基金部（Court Funds Office, CFO）が供託事務を担っています。訴訟費用の担保供託、執行供託、弁済供託などが認められており、原則として金銭が供託されます。

まとめ

供託制度は、様々な法律関係における権利や義務を保護するために重要な役割を果たしています。その種類や手続きは多岐にわたりますが、いずれも法令に基づいて厳格に運用されています。

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